では、申告書作成手順を一通り見ていくことにしましょう。 説明の都合上、作成手順を次の5つのステップに分けて説明していきます。 ●前期繰越額と当期の利益金額及び利益金処分額 ●申告調整(1) … 別表4の仮計までの計算 ●申告調整(2) … 別表4の仮計以降を計算し、所得金額を確定する ●税額計算 … 特別控除と追加課税の処理等 ●地方税申告書の作成と確定税額の処理 ◆Step1 1.別表5(1)の前期繰越額 別表5(1)の前期繰越額を期首欄に記載します。通常は前期の別表5(1)の「翌期首現在」の欄をそのまま記載しますが、修正申告等をいしている場合は修正後の項目・金額を記載します。 株主総会等で利益金処分案が承認されると、それに基づき「利益準備金」「別途積立金」「次期繰越利益」等社内に留保される金額も確定します。これらの留保金額は、前期からの繰越額に加算されます。 留保金額の繰越額+当期の留保金額=翌期首の留保金額 社内留保金額の増減を項目別に記載する明細表が別表5(1)です。 〔事例〕 K社の前期からの繰越額です(しばらくすると、記載事例としてK社が再登場します)。 〔 別表5(1) 〕
「利益準備金」「新規事業積立金」「別途積立金」「繰越損益金」の4項目は説明不要でしょう。 「納税充当金」は決算で確定した「未払法人税等」に該当します。経理上は負債の科目ですが、法人税法では利益積立金額の構成要素として扱います。 「各事業年度の所得の金額」の計算上、法人税等は損金不算入です。従ってこれらの税金の納付を目的とした納税充当金も損金不算入となります。ただし、納税充当金が損金不算入の税金の納付目的にだけ繰り入れられ、或いは取り崩されるとは限りません(事業税等)。そこで費用として繰り入れた納税充当金は、一旦全額を損金不算入とします。損金不算入ですから、法人の当期利益より損金経理した納税充当金相当額だけ所得金額は多く、またその金額だけ社内留保された金額は多かったとみなします。 そして、法人税・住民税は税法上はいわば「利益金処分」の扱いですから、△を付して記載し利益積立金額から控除します。 尚、損金算入の税金(事業税等)を納付して納税充当金を消却した場合は、経理上は費用としていませんが、税法上は損金とします。 2.当期利益金額及び利益金処分額 当期利益金額(或いは欠損金額)及び利益金処分額の内容を、別表4及び別表5(1)に記載します。利益金処分計算書でいえば、「前期繰越利益」を含まない「当期利益」から計算が始まります。
〔 別表4 〕
別表4の留保欄の金額は、その明細を別表5(1)にも記載します。 〔 別表5(1) 〕
繰越損益金の記載方法は(B)の方がわかり易いと思うのですが、(A)の記載方法が一般的です。 ◆Step2 別表4の仮計までの計算と留保の場合の別表5(1)への転記処理をします。寄附金・所得税・繰越欠損金以外のほとんどの項目(申告調整)をこのステップで処理します。 具体的な処理内容は次章で説明します。ここでは調整項目の概略をみてください。なお、コメント文のなかで「損金不算入」「益金算入」は所得加算、「損金算入」「益金不算入」は所得減算になります。
◆Step3 別表4の仮計以降を計算して当期の所得金額(或いは欠損金額)を確定します。寄附金の損金算入限度額は、法人の資本金額(出資金額)と当期の(仮)所得金額をもとに計算しますから、所得金額の計算が2段階になっています。
青色申告法人の繰越欠損金等は「当期の所得金額」から控除することができますが、この場合の「当期の所得金額」は繰越欠損金以外の全ての調整項目を処理した後の金額ですから、別表4では(解散・精算年度を除き)最終調整項目になっています。
◆Step4 このステップでは法人税額を計算します。使用する別表は1ですが、この別表1が法人税の「本来の意味の申告書」です(他の別表は附属明細書ですが、全ての別表を含めて申告書というのが一般的)。手許に別表1がない場合は国税庁のホームページからダウンロード等して入手してください。 尚、以下の説明は普通法人の場合です。公益法人等の場合は若干異なりますが、説明は割愛します。 まず、仮の税額を計算します。 当期所得金額を別表1の「1」欄に記載し、別表1「次葉」で法人税額と地方法人税額を計算します。 別表1「次葉」の「法人税額の計算」欄に該当金額を当てはめます。中小法人の年800万円以下の金額には軽減税率が適用されますから、中小法人の場合で所得金額が800万円を超える場合は、800万円と(所得金額-800万円)に分けて計算します。年800万円ですから、新設法人等の場合は月数換算が必要です(1ケ月未満は切上げ)。 ◆法人税額 次に特別控除の適用がある場合は、適用を受ける項目別に専用の別表を使い控除額を計算します。適用例の多いものに試験研究費の特別控除があります。
特別(追加)課税がある場合は、適用を受ける項目別に専用の別表を使い課税額を計算します。
特定同族会社に対する留保金課税は、資本金1億円以下の中小法人は適用除外です。 土地の譲渡益課税は現在適用停止中です(令和8年3月31日まで)。 所得税額等(所得税額・外国税額)を控除します。控除する所得税額が法人税額より多い場合(欠損年度等)は還付されますので、該当欄に還付請求額を記載します。 最後に中間申告額を控除して確定申告額を決定します。年税額<中間申告額の場合は還付請求額を該当欄に記載します。 ◆地方法人税額 地方法人税は、法人税額の10.3%(令和元年9月30日までに開始した事業年度では4.4%)相当額です。所得の金額に対する法人税額(特別控除や追加課税前の額)と、特定同族会社の留保金額に対する法人税額に対してかかり、特別控除はありません。法人税額から控除しきれなかった外国税額と、中間申告額を控除して確定申告額を決定します。 ◆Step5 法人税額の計算が終わりましたら、続いて地方税額を計算し、確定税額の最終処理をします。 地方税の申告書の名称等
事業税の課税対象は当期の所得金額(特定の事業に対しては収入金額)です。法人税の課税対象と基本的に同じですから、法人税申告書で計算した所得金額をもとにして、数項目の加算・減算を調整して課税対象額を算出します。 欠損金を繰り越している場合は、事業税の計算に先立って繰越欠損金の控除額を「6号様式別表9」で計算しておきます(これは法人税別表7(1)に相当するものです)。 なお、資本金(出資金)が1億円超の法人は所得金額の他にも課税されますが、ここでは省きます。 平成20年10月1日~令和元年9月30日の間に開始する事業年度では 地方法人特別税 が課税されていました。従来の事業税を事業税と地方法人特別税(国税)に割り振る仕組みで、地方法人特別税額は事業税額に一定率を掛けて算出します。令和元年10月1日以後に開始する事業年度から地方法人特別税は廃止され、特別法人事業税に移行しましたが、課税の仕組みは同一です。 道府県民税・市町村民税は法人税額をもとにして計算する法人税割と、法人の規模に応じた均等割との合計額です。両者は税率が異なる他は、ほほ共通の内容になっています。東京特別区に事業所がある法人は、均等割額を第6号様式別表4の3で計算します。これも、6号様式の計算の前に作成しておきます。 〔補足〕 平成28年1月から、法人に対する利子割の徴収は廃止されました。改正前は道府県民税の法人税割から預貯金の利子等に係る利子割(これは道府県民税の一部です)を控除するため、6号様式の作成に先立って第9号の2様式で利子割額の控除額を算定し、利子割額の都道府県別明細(第9号の3様式)の作成も必要でした。 分割法人の場合 ⇒ 地方税は各事業所所在地の都道府県・市町村が課税します。本店(本社)所在地以外の都道府県・市町村に支店・工場・営業所等がある場合は、それぞれの従業員数等を基準として課税対象額を分割し、支店・工場・営業所等の所在地の都道府県・市町村に申告書を提出します。 最後に ●法人税(地方法人税を含む)及び地方税の確定申告額を、事業税を除き表5(1)・別表5(2)の該当欄に記載します。 ●別表4と別表5(1)の処理が正しいかどうか検算をします。 |