申告書は確定した決算に基づいて作成されなければなりません。決算が未確定では法人税法の規定が適用できませんから、これは当然のことです。既にお解かりの通り、別表4の計算は税引き後の当期利益と利益金処分額から始まります。 他方、法人の利益計算は「税引前当期利益」-「法人税・住民税」=「当期利益」です。法人税・住民税の計算が終わらないと「当期利益」は確定しません。 では、どっちが先か? … 堂堂巡りになりそうですが、申告書の仕組みが理解できていれば解決方法はあります。 〔1〕 ピタリ合わせる方法 別表4の構造をもう一度調べてみましょう。「当期利益又は当期欠損の額」と「損金経理納税充当金」の金額に注目します。なお、金額は総額欄だけ示します。前項までとは金額が異なりますが、気にしないでください。 〔 別表4 〕
決算で未払計上した納税充当金は損金不算入です。これを、損金経理しなかったものとして別表4を記載してみましょう。 未払計上した金額は「損金経理納税充当金」として別表4で加算した金額ですから、これを未払計上しない場合は 49,155,989 + 13,300,000 = 62,455,989 になります
■未払計上した金額は「損金経理納税充当金」として別表4で加算されますから、確定申告額を未払計上する前の金額と、未払計上した後の「所得金額又は欠損金額」は同額です。 ■「当期利益又は当期欠損の額」+「損金経理納税充当金」の額は、他の項目に異動(金額の変更)がなければ、常に一定額です。 そこで、次のように処理すれば良いことが解かります。
別表5(1)でも確認しておきましょう。 ●確定申告額の未払計上後の内容は次の通りです(抜粋)。 〔 別表5(1) 〕
●確定申告額を未払計上しなければ、それだけ未処分の利益が増えますから、繰越損益金が 3,801,861 + 13,300,000 = 17,101,861 となります。 〔 別表5(1) 〕
「繰越損益金」+「納税充当金」の金額はいずれも同額です。したがって、確定申告額の未払計上額の多寡によって利益積立金額が左右されることはありません。
上の処理を、決算の途中に挟み込めばピタリの金額を未払計上する事ができます。
以上の解説では、仮利益金額を確定申告額の未払計上前の金額=中間申告額は処理済みとしていますが、中間申告額も確定申告額も当期の申告税額ですから、税引前利益から申告書を作成し、確定申告額を算定することもできます。ただし、損金経理をした事業税(地方法人特別税又は特別法人事業税を含む)の中間申告額は税引前利益から引いておくか、申告調整で減算する必要があります。損金経理をした事業税の中間申告額は「損金」になるからです。
〔2〕 概算で近づける方法 ピタリと合えば気持ちがいいものですが、さてそこまでする必要があるのか?実益があるのか … といえば、やはり?です。実務では、上の手続きで申告書を先に作って確定税額を出していても、端数は切上げてしまうか多少多めに未払計上することがほとんどです(修正申告等に備える意味もあります)。 しかし、ここまで理解できる方なら、概算でもかなり近い金額を計上することができるでしょう。 決算も最終段階になると、当期の確定申告額の未払計上を残すだけとなります。この段階では、確定申告額以外の金額は判明していますから、次のようにして確定税額を見積ります 。 ●法人税・住民税、事業税等(以下、地方法人特別税を含めて事業税等とします)、交際費及び繰越欠損金を調整して、税法上の所得金額の近似値を求めます。 ●損金算入した法人税・住民税・事業税等があればこれを加算して仮利益金額とします。
●課税対象額が判明すれば、次に法人税・住民税、事業税等の税額を計算します。
〔3〕 いずれにせよ概算は必要 申告書には利益処分額も記載します(別表4及び別表5(1))。これは、事業年度末からおよそ2ケ月後に確定することの先取りです。ですから、当期の確定申告額を概算で未払計上するにせよ、実際に申告書を作成して確定申告分を未払計上するにせよ、これだけは予定額を組まなければ解決しません。 全くの概算でいくか、一通り申告書を作成してその結果を概算とするかは、各自ご検討下さい。概算のための計算表を例示しておきますが、参考になれば幸いです。
〔4〕 補足 受取配当金の益金不算入額を当年度実績で計算する場合、総資産額の計算のために、前期及び当期の貸借対照表が必要だと説明しています。そして、この節の〔1〕では決算の途中に申告書の作成に移ることを説明しています。 ここでも堂堂巡りの話になりそうですが、この場合(受取配当金の益金不算入額を調整する場合)は「当期の貸借対照表」は試算表或いは精算表で代用することができます。 確定申告額の未払計上の処理をすると、未払計上した金額だけ当期利益が減りそれに見合う負債(未払法人税等)が増えます。従って、資産勘定の総額は変動しません(下図左)。
一方還付請求額が発生する場合は、事情が異なります。還付請求が発生する場合で、還付請求相当額を未収金或いは仮払金に振替ると、資産総額がそれだけ多くなり(図の右側)、試算表等では代用できません。 申告書は確定した決算に基づいて作成されなければなりませんから、還付請求額が発生する場合で、しかも「受取配当金の益金不算入額」を調整する場合は、〔1〕の方法は使えません。 |