◆ トップページ 決算実務講座目次 (1)決算・申告の手順 (3)決算と申告の関係 (4)必須税務知識
法人の決算と申告 (2)-税務申告
課税対象(標準) / 申告書の仕組みと作成手順
■法人税・住民税の課税対象(標準)
●
法人税は「当期の所得の金額」に対して課税されます。それ以外に対しても課税される法人税はありますが、特殊な場合ですから以後割愛します。
住民税は「法人税額」を基にして課税される「法人税額割」に、会社の規模に応じて課税される「均等割」の2種類ですが、単に住民税というときは両者の合算を指します。
事業税は、本来は事業活動そのものが課税対象なのですが、一部の業種を除き税額計算は当期の所得金額で行います。
〔補足〕大法人では、当期の所得金額以外を課税対象にするいわゆる外形標準課税が課せられますが、税法用語では課税対象のことを「課税標準」といいます。「外形標準課税」の「標準」も同じ意味です。
■当期の所得の金額とは
申告額の計算は(「当期の所得の金額」×「税率」 ±α )です。「当期の所得の金額」が判れば、すぐに税額が計算できます。
「当期の所得の金額」は会社の決算額の「税引前当期損益」ではありません。「当期の所得の金額」は
「益金の額」-「損金の額」
です。
「益金の額」は概ね 収益額 、「損金の額」は概ね 売上原価+経費 なのですが、税法の規定で幾つか異なる部分があります。
では、どうやって「当期の所得の金額」を計算するか?
×
初めから税務用の帳簿を作成する ⇒ 二重帳簿は、会社法も税法も認めるはずがありません。
◎
申告は確定した決算に基づいて行わなければなりません ⇒ 会社の決算額(税引後当期損益)を基にして、税法上の「当期の所得の金額」に修正する作業を行います。
法人税の申告書は、何十枚もの明細書から成り立っていますが、それらのほとんどはこの修正作業のために用います。
■会社の決算損益と税法上の「当期の所得の金額」
会社の決算利益(損益)は、税法上の「当期の所得の金額」とは通常は一致しません。一致しない、主な項目をみて行きましょう。
●会社の経理では「費用」とするが、税法では「損金」にならないもの
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租税公課
法人税、住民税、罰金・科料等は損金不算入です(事業税、固定資産税、消費税は損金算入)。
交際費
資本(出資)金1億円超の法人は一部損金算入。1億円以下の法人でも、一定額を超える部分は損金不算入。
臨時役員賞与
会社の経理では、費用とすることも利益処分とすることもできますが、税法では全額損金不算入です。
減価償却費
税法上の損金算入限度額を超える部分は損金不算入。
引当金
税法で繰入を認めていないものは、全額が損金不算入。繰入を認めているものも、損金算入限度額を超える部分は損金不算入。
所得税
利子・配当を受取る際には所得税が源泉徴収されています。所得税は個人の税金ですから法人には納める義務はありません。 源泉徴収された所得税は法人税の前払い分と見なして、確定申告額から差引くことができます。申告に際して法人税額から差引く場合は、一旦損金不算入とします。
〔補足〕
■ 利子に係る源泉徴収は、国税(所得税)が15%、地方税 (利子割 )が5%
■ 配当に係る源泉徴収は国税(所得税)が20% (平成26年1月1日以降)
■ 所得税に併せて、復興特別所得税が係ります (所得税額の2.1%)
寄付金
寄付金の内容によって、全額損金算入と、一定額を損金算入するかを判定します。
●会社の経理では「収益」とするが、税法では「益金」にならないもの
還付税
法人税・住民税等損金不算入の税金が還付された場合は、益金不算入です。
受取配当金
配当金は会社の税引後利益から分配されます。これに課税すると二重課税になりますので、益金不算入とします。ただし、益金不算入となるのは受取配当金の全額ではありません。
■申告書の仕組み
法人税の申告書は1枚の用紙ではなく、「別表」と呼ばれる多数の明細書で構成されています。およそ100種類ほどの別表がありますが、申告には必要な別表だけを使います。
●最も重要な別表
別表1
税額計算(通常申告書と言えば別表1で、普通法人は1(1)、公益法人は1(2)を使います)
別表2
同族会社及び特定同族会社か否かの判定
別表4
所得金額の明細(申告書の中で最も中心的な役割をします)
別表5(1)
利益積立金額の明細(税務上の純資産額の明細)
別表5(2)
租税公課の納付状況の明細(当期に支払った法人税・住民税・事業税等の明細及び当期の確定税額等を記載)
●よく使う別表
別表6( 1)
所得税額(法人税から控除する所得税額の明細)
別表8( 1)
受取配当金(益金不算入額を計算)
別表7 (1)
繰越欠損金(当期の欠損金を次期以降に繰越す場合、前期以前の欠損金を当期の所得金額から控除する場合)
別表11(1)
別表11(1の2)
貸倒引当金(繰入額に限度額超過額があるか否か)
別表14(2)
寄付金(損金不算入額を計算)
別表15
交際費(損金不算入額を計算)
別表16(1)
別表16(2)
減価償却費(計上額に限度超過額があるか否か等を計算。定額法は16(1)、定率法は16(2)を使います)
別表16(6)
繰延資産の減価償却費
別表16(8)
一括償却資産の減価償却費
また、地方税にも幾つかの明細表があります。
●都道府県提出分
第6号様式
事業税及び道府県民税(又は都民税)の申告書
第9号の2様式
利子割(道府県民税から控除する利子割額の明細 、旧第6号様式別表4の4 )
第9号の3様式
利子割(利子割額の都道府県別明細)
第6号様式別表4の3
均等割(都民税の均等割額の明細)
第6号様式別表9
事業税の繰越欠損金
●市町村提出分
第20号様式
市町村民税の申告書
2以上の都道府県、市町村に支店・営業所・工場等を所有している会社は、それぞれの都道府県、市町村に申告しなければなりません。 分割法人は、都道府県民税、市町村民税の課税対象(課税標準)を一定基準で分割(按分)します。分割明細書を道府県民税は第10号様式 、市町村民税は第22号の2様式といいます。
■作成手順
申告書は一定の手順に従って作成していきます。残念ながら、別表番号は作成手順とは関係がありません。
●作成手順の概略
1.
当期の所得金額を計算します。
2.
仮の税額を計算した後に、追加税額、税額控除額を計算し、法人税額を確定します。
3.
地方税を計算します。
4.
法人税・住民税の確定税額を別表5(2)と別表5(1)に記載します。
●作成手順(1) … 当期の所得金額の計算
会社の決算利益(税引後当期利益)に必要な修正を加えて、税法上の「当期の所得金額」に修正する作業です。 この作業を「申告調整(加算調整及び減算調整)」と言いますが、別表4は「申告調整」の集計表の役割を果たします。
別表4は、区分・総額・社内留保・社外流出の4列に仕切られています。
区 分
総 額
処 分
社 内 留 保
社 外 流 出
当期利益又は当期欠損の額
税引後当期利益(損益)
配当
その他
加
算
損金経理法人税
損金経理住民税
損金経理納税充当金
:
減価償却超過額
交際費の損金不算入額
減
減価償却超過額の当期認容額
受取配当等の益金不算入額
法人税等の~還付金
所得税額等~還付金
仮 計
寄付金の損金不算入額
(加 算)
/
法人税額から控除する所得税額
繰越欠損金
(減 算)
所得金額又は欠損金額
①
別表4の1行目「総額」に、税引後当期利益(損益)を記載します。赤字の場合は△で記載します。役員賞与・配当金等は「社外流出」に記載し、社外に流出しなかった部分を「社内留保」に記載します。
②
当期に納付した租税公課の明細を、別表5(2)に記載します。 ◆法人税・住民税等を費用として処理している場合 ◆法人税・住民税等の確定申告分を未払い計上している場合(損金算入納税充当金) は、その金額を別表4で加算します。 ◆法人税・住民税・所得税等の還付金を受け入れて収益に計上している場合 は、その金額を別表4で減算します。
③
寄付金、所得税、繰越欠損金以外の事項で申告調整の必要なものを調整します。 主な調整項目は ・貸倒引当金 ・交際費 ・減価償却費 ・受取配当金 で、これらは調整のための専用別表が用意されています。
■
貸倒引当金
繰入限度額を超える部分は加算調整
損金算入限度額を超える部分は加算調整
減価償却限度額を超える部分は加算調整しますが、超過額は次年度以降に順次繰り越します。繰越超過額のある資産に償却不足が生じた場合は、減算調整します(別表4の「減価償却超過額の当期認容」欄に記載)。
益金不算入額を(別表4の「受取配当等の益金不算入額」欄に記載)。
その他、税法で認められていない引当金を繰り入れているときや、臨時役員賞与を費用にしているときは、その全額が認められませんから、直接別表4で加算調整をします。 以上の調整をして、別表4の「仮計」を求めます。
④
寄付金、所得税、繰越欠損金の調整をします。これらは調整のための専用別表が用意されています。
損金算入限度額を超える部分は加算調整します。限度額の計算に「当期所得金額(仮計)」を使用するため、「仮計」以後に調整します。
法人税から差引く金額を加算調整
欠損金
繰越欠損金を当期の所得金額から差引く場合、又は当期の欠損金を次期以降に繰越す場合。 繰越欠損金を当期の所得金額から差引く場合の「当期の所得金額」は最終の金額でなければなりませんから、この調整は別表4の最終行で行います。
別表4には「社内留保」「社外流出」の区分があります。社内留保で処理した項目は、別表5(1)にその増減を記載するのですが、少々複雑です。初めて聞く人には(???)な話になりそうなので、この話は省きます。
●作成手順(2) … 法人税額の計算
「当期の所得金額」が計算できましたら、次の主役は別表1です。
◆初めに、当期の所得金額に単純に税率を掛けて、仮の税額を計算します。
普通法人の基本税率は25.5%です(27年4月1日以後開始事業年度からは23.9%)。
中小法人の年800万円以下の部分は15%です。年800万円ですから、事業年度が6ケ月の会社や新設の会社の場合は月割りで計算します。
当期の所得金額が「0」又は△の場合は、当然税額は「0」です。
◆追加課税がある場合は、その税額を計算して仮の税額に加算します。
特定同族会社の留保金課税(別表3(1) … 平成17年度以降は毎年制度改正されましたが、平成19年4月1日以後は
対 象
上位1順位の株主(出資者)及びその関連者が全株式(出資)の1/2以上を所有している、資本金が1億円超の法人。
税率等
同族会社の留保金額が、一定額以上の場合に課税されます(課税留保金額の10%~20%)。
短期所有土地等の譲渡益課税(別表3(2)、3(3)等) … 現在適用停止中。
◆法人税額の特別控除額を計算して、仮の税額から減算します。
毎年のように制度が変わります(この部分は法人税法ではなく、租税特別措置法で決められています)。 その中で「中小企業者の試験研究費の特別控除」は長く続いています。
◆最後に、源泉徴収された所得税額と中間申告で納めた税額(中間納付額)を引いて確定申告額を決定します。計算結果が△の場合は、還付請求します。
●作成手順(3) … 地方税の計算
◆都道府県提出分は、事業税と都道府県民税(都民税)が1枚の用紙になっています(第6号様式)。
事業税
課税対象(課税標準)は、一般の業種では法人税別表4で計算した所得金額に、数項目の調整をした金額です。当期が欠損の場合、又は繰越欠損金を当期の所得金額から引く場合は、6号様式別表9を作成します。 ・年400万円以下の部分 ・年400万円を超え、年800万円以下の部分 ・年800万円を超える部分 に分けて計算します。初めの、2つの部分は税率が低くなっています。ただし、3以上の都道府県に事業所を有する、資本金(出資金)が 1千万円以上の法人には軽減税率の適用がありません。
道府県民税
法人税割額
課税対象(課税標準)は、法人税額(所得税額を引く前の年税額)に数項目の調整をした金額です。法人税から所得税を引くのと同様、法人税割額から利子割額を引きます。 控除する利子割額、その明細を9号の2様式及び9号の3様式に記載します。
均等割額
課税対象(課税標準)は、会社の規模(資本金額と従業員数)で、それぞれに当てはまる定額になっています。
市町村提出分(第20号様式)は、道府県民税の申告書とほぼ同じ内容です。利子割に関する項目はありません。
事業税・住民税とも課税対象(課税標準)が「0」又は△のときは、当期の税額は「0」ですから、中間納付額がある場合は、還付請求します。ただし、住民税の均等割は欠損の場合でも発生します。
地方税は、各自治体が課税しますから税率はそれぞれ異なります。ただし標準税率(事実上最低税率)と制限税率が定められていますから、大きく異なることはありません。
2つ以上の都道府県、市町村に事業所がある会社(分割法人)では、予め課税標準を分割してから、それぞれに提出する申告書を作成する必要があります。
●作成手順(4) … 地方税の計算終了後に、法人税申告書に戻り申告書を完成させます
別表5(2)、別表5(1)の「当期確定税額」欄に、法人税・住民税の確定税額を記載します。
事業税は損金算入が認められる税金ですが、当期確定額は翌期の損金になるため、別表5(2)・別表5(1)には記載しません。
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