〔1〕 利益積立金額 利益の社内留保は、法人の経理上は次の3つを合計したものです。 ・利益準備金 ・任意積立金 ・繰越損益金 申告調整で所得加算・所得減算をすると「法人税法上の社内留保金額」は、それに伴って増減するのでしょうか。次の例を見てください。 〔 別表4 〕
この例では、経理上の社内留保金額は 6,500,000円です。 (A)の「売掛金計上もれ」は経理上の誤りを修正したものです。 売掛金 1,000,000 売 上 1,000,000 と処理すべきところが、記帳もれとなっていたのですから正しく記帳されていれば当期利益もそれだけ多く、従って留保となる金額もそれだけ多くなっていたはずです。 (B)は交際費のうち 50万円を損金不算入として所得加算しています。これによって法人税の課税対象額は増加しますが、既に社外に支払済みであり(法人の経理上の誤りではありませんから)当期利益は増加せず、社内留保金額も増加しません。 (C)の処理は、前期に繰入れた貸倒引当金 1,850,000円に繰入限度超過額(20万円)があったため、前期の申告調整で所得加算したものを当期の戻入れ処理に伴い調整したものです。前期の繰入額 1,850,000円を当期は 貸倒引当金 1,850,000 貸倒引当金戻入 1,850,000 としましたが、未調整のままでは、繰入限度超過額の 20万円が前期と当期に二重に所得計上されることになります。そこで、当期は所得減算の処理をします。戻入れるべき金額が少なければそれだけ当期利益も少なく、社内留保金額も少なくなります。 以上のことで解るように、申告調整によって所得加算・所得減算すると、そのうち「留保」に該当する項目は「法人税法上の社内留保金額」を増減させることになります。別表4は、「法人税法上の社内留保金額」すなわち「利益積立金額」に該当するか否かについて、いわば仕訳機能を果たしています。総額欄に記載さた金額は「留保」か「社外流出」のいずれかの欄に記載されます。従って、 「総額」=「留保」+「社外流出」(及び 「その他:後述」 ) になります。 別表4の仕訳機能
これまで、利益積立金額を単に利益の社内留保(の累計)としてきました。法人税法では重要な用語ですから、もう少し詳しく見てみましょう。 利益積立金額の定義は法人税法第2条18号に定められていますが、かなりの長文です。一言で換言すると「株主(出資者)に対する配当可能利益の留保」です。留保の場合は利益積立金額を増加させる場合と減少させる場合があり、社外流出の場合は利益積立金額の増減には関係しません。 〔1〕の事例にもとづいて別表5(1)を記載すると、次のようになります。 <前期>
<当期>
留保と社外流出の区分の外に、もう一つの区分があります。別表4の社外流出欄の※マークです。主なものは「受取配当金 …」「所得税等~還付金」「欠損金~当期控除額」です。これらは、留保でも社外流出でもありません。 例えば受取配当金は税法上益金不算入ですから、所得金額の計算上は減算項目です。しかし、会社は配当金を受け取っていますから、分配可能利益は増加しています。所得減算で処理することは明白ですが、減算の留保欄に記載すると「利益積立金額の減少」という記載の規則に反します。従って、社外流出欄に記載せざるを得ないのですが社外流出ではないので、※マークを付けて区別します。 〔 別表4 〕
〔補足〕 総額欄に記載さた金額は「留保」か「社外流出」のいずれかの欄に記載されます。従って、「総額」=「留保」+「社外流出」になりますが、※マーク付きの金額ある場合は 「総額」=「留保」+「社外流出の+の金額-※マーク付きの金額」 13,700,000=7,300,000+6,500,000-100,000 になります。 〔2〕 別表4と別表5(1)の関係 利益積立金額は株主(出資者)に対する分配可能利益の留保ですから、本来総額としてはプラスの概念ですが、個々の項目を見れば増加させるものもあれば、減少させるものもあります。また、法人税・住民税の本税等は税法上は利益処分の扱いですから、利益積立金額の減少項目(△の利益積立金額)として扱います。 △のマイナス=プラス という場合もありますから、これを説明しておきましょう。 納税充当金を損金経理によって繰入れた場合、納税充当金は損金不算入ですから別表4で加算(留保)の処理をして、別表5(1)で利益積立金額の当期増加の処理をします。法人税・住民税の本税等は△の利益積立金額ですから、これらを控除して利益積立金額の総額を算出します。期首現在額は通常このような形で繰越されています。
未納税の各欄は 期首現在額(前期確定申告額)+当期増加額(当期中間申告額)=当期減少額(当期納付額) になっています。ここでは、△の利益積立金額である未納法人税等が減少していますから、△の利益積立金額のマイナスの処理をしています。
上の例では、前期に売上計上もれと、それに対応する仕入れ計上もれを申告調整しています。会社の経理処理はいずれも当期の売上・仕入れになっていますから、未調整では前期と当期に二重に所得計算するとになりますから、それぞれを減少させる処理をします。 仕入れ計上もれについてだけいえば、前期の申告調整で前期の仕入れとして処理しましたから、当期の申告調整では当期の仕入れから除外します。別表4では所得加算の処理が、別表5(1)では利益積立金額の増加の処理が必要ですが、この場合は-(△)=+で増加しています。 別表4と別表5(1)の関係を一覧表にしておきます。
〔3〕 別表4と別表5(1)の照合 原則として別表4の留保欄に記載する項目は、別表5(1)にも記載します。 例外として、法人税・住民税の当期分の中間申告額と、確定申告額の発生額(要納付額)については別表4には記載しません(別表4に記載するのは、実際の納付額です)。従って、この2件は別表4と別表5(1)の間に関係がありません(この点は次章で説明します)。 税務署配布の別表5(1)の欄外には、検算式が記載されています。
なぜ、こうなるかを念のため図解しておきます。 〔 別表4 〕
〔 別表5(1) 〕
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