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耐用年数と償却方法・償却率など

個人事業では、文中 「法人、会社」 等としている箇所を適宜読み替えてください。(法人)としている箇所は個人事業は対象外です。

■ 耐用年数の判定

償却額の計算には償却率が必要ですが、償却率は耐用年数によって決まります。実務では、耐用年数表の「種類 ⇒ 構造・用途 ⇒ 細目」 の順に当てはめて該当する耐用年数を決定します。耐用年数表は別表第一から別表第八まであります。

別表第一 … 機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表

別表第五 … 汚水処理用減価償却資産の耐用年数表

別表第二 … 機械及び装置の耐用年数表

別表第六 … ばい煙処理用減価償却資産の耐用年数表

別表第三 … 無形減価償却資産の耐用年数表

別表第七 … 農林業用減価償却資産の耐用年数表

別表第四 … 生物の耐用年数表

別表第八 … 研究開発用減価償却資産の耐用年数表

機械及び装置については、「設備の種類」は「○○製造設備」となっています。個々の機械・装置で判定するのではなく、生産される最終商品によって判定するためです。加工等に使用する設備については、その内容に基づいて判定します。

製造設備は多数の機械・装置の組合わせで出来ていますので、個々の機械・装置の耐用年数は「機械装置の個別年数と使用時間表 ⇒ 機械及び装置の細目と個別年数表 」に掲げられています。

判定に困りそうな事例を挙げておきます。

ソフトウエアーのように、別表第三にも別表第八にも掲げられている場合は、別表第五~別表第八を優先適用します。

一棟の建物の1階が店舗で2階以上を事務所にしている場合のように、2以上の用途に共用されている資産については、その資産の主たる用途を基準にして判定します。ただし、大規模な造作が必要で設計段階から考慮されているものについては、用途別に判定します。

建物の例では、1階が駐車場・機械室・店舗・倉庫等で2階以上が事務所であれば用途は事務所になりますが、1階と2階が事務所で3階以上が賃貸マンションの場合は、用途別に判定します。

建物附属設備は原則として建物本体と区分しますが、木造・合成樹脂造り又は木骨モルタル造りの建物の附属設備については、建物と一括して建物の耐用年数を適用することができます(通達)。

これは、工事が一括請負で建築費用の区分が困難な場合を考慮したものですが、一般には建物附属設備の耐用年数は建物より短いので、見積書等で区分したほうが、附属設備部分の償却は早くなります。

■ 中古資産の耐用年数の見積りに困ったら

中古資産の耐用年数は適正に使用可能期間を見積もるのが原則ですが、これが困難なときは次の方法で判定します。

●法定耐用年数の全部を経過したもの

   法定耐用年数 × 20% 

1年未満の端数は切捨てる

2年に満たない場合は2年 

●法定耐用年数の一部を経過したもの

(法定耐用年数-経過年数) + 経過年数 × 20% 

取得した中古資産に改良を加えた場合で、改良費の額が再取得価額(新品の価額)の50%を超えるときは、中古資産には該当せず法定耐用年数通りの年数になります。

■ 一括償却資産で処理するか、中小企業者等の少額減価償却資産で処理するか

◆ 一括償却資産

平成10年度税制改正で少額の減価償却資産の基準額が20万円から10万円に引き下げられたのに伴い、一括償却資産の損金算入制度が設けられました。

これに合わせて、会計上の処理をすると(法人の場合は)

個々の資産の耐用年数に関りなく 1/3 ずつの均等償却とするが、このような償却方法は一般には適用されていない

個々の資産の帳簿価額が算出されず、一部に除去されたものがあっても、これに係る処理をしない

ので、企業会計上適正でないとの指摘があります。

この指摘に従えば、取得時に消耗品や備品等で処理し、損金算入限度額超過額を申告調整することになります。例えば、一括償却資産の対象金額が90万円であった場合は、次のように処理します。

●取得年度  損金算入額 90万円  損金算入限度額超過額 60万円(申告加算)  

●次年度   損金算入額  0万円  損金算入不足額    30万円  繰越超過額 60万円   不足認容額 30万円(申告減算)  

●次次年度  損金算入額  0万円  損金算入不足額    30万円  繰越超過額 30万円   不足認容額 30万円(申告減算)  

中小法人では、制度に合わせて「一括償却資産」の科目を設け 1/3 ずつの均等償却とするのが一般的です。また、個人事業では(強制償却ですから)この制度通りの処理しかできません。

◆ 中小企業者等の少額減価償却資産

中小法人 (青色申告に限ります) が、平成18年4月1日から平成22年3月31日までの間に、30万円未満の償却資産を取得(製作)した場合は、年間300万円を上限として即時償却が認められます ( 適用期間は平成24年3月31日まで延長されています  )。

適用を受けることができる資産の総額が300万円を超える場合は、個々の資産の組み合わせで300万円以下になるようにしてください。また、10万円以上かつ20万円未満のものを一括償却資産にすれば、償却資産税の対象外になります。当期の費用(損金処理額)を多くするか、翌期以降に償却額を残すか?かなり難しい問題です。

〔補足:償却資産税との関連 ⇒ 償却資産申告書の書き方  を参照してください〕

■ 償却方法の選定

◆ 税法の規定

平成19年3月31日以前

(A)

平成19年4月1日以後

(B)

法定の償却方法(B)

法人

個人

建物

平成10年3月31日以前取得分

旧定額法又は旧定率法

定額法

定額法

定額法

平成10年4月1日以後取得分

旧定額法

建物附属設備、構築物、機械・装置、船舶、航空機、車両運搬具、工具、器具・備品

旧定額法又は旧定率法

定額法又は定率法

定率法

定額法

鉱業用減価償却資産

旧定額法又は旧定率法又は旧生産高比例法

定額法又は定率法又は生産高比例法

生産高比例法

無形固定資産

旧定額法

定額法

定額法

鉱業権

旧定額法又は旧生産高比例法

定額法又は生産高比例法

生産高比例法

償却方法が2種類以上のものは、届出をした償却方法で償却額を算出しますが、届出をしていない場合は法定の償却方法に従って償却額を算出します。

設立(開業)年度の届出書、その後の年度で変更したい場合の届出書については、 国税庁のHP で確認してください。

具体的な計算方法、計算事例については 新減価償却制度 をお読みください。

◆ 定率法と定額法の比較

●それぞれの長所

定  額  法

定  率  法

使用期間中は均等の償却額となるので費用計算・原価計算が平均化される。エネルギー供給業等、料金算定に償却額が大きく関る事業では、定額法の方が妥当です。

修繕費は初期には少なく 年数の経過とともに増えるのが一般的ですから、(償却額+修繕費)の合計額を平均化することができます。

また、耐用年数の経過前に廃棄しても、廃棄による損失は少額で済みます。

●定率法の自動修正機能

定額法では毎期の償却額は同額ですから、途中で償却不足の年度があっても不足額は耐用年数経過時まで残ります。

定率法では、償却不足が生じた翌年度は帳簿価額が不足額だけ多くなり、不足額部分も以後の年度で 不足額-(不足額×償却率) を繰返しながら順次償却額に加算していくことになります。

●未償却残額の比較

左の図の三角形は、定額法で償却した場合の未償却残額を、オリーブ色の部分は定率法で償却した場合の未償却残額を現しています。

オリーブ色の部分の面積は三角形の面積の約65%です。

建物や無形資産のように定額法しか採用できない資産種類もありますから、一概には言えませんが、定額法を採用すると定率法を採用する場合に比べ、約35%固定資産の額を多く表示することができる … ことになりそうです。

◆ その他の償却方法 … 概略

生産高比例法

(取得価額-残存価額) × 当期のその鉱区の採掘数量 ÷ 採掘予定数量

取得価額 × 当期のその鉱区の採掘数量 ÷ 採掘予定数量

取替法

取得価額の50%までは定額法又は定率法で計算し、その後は取替えた費用を償却費とする … 鉄道事業や配電事業等の構築物が対象です。

特別な償却方法

算術級数法、減債基金法、年金法等の償却方法もあり、申請が承認されれば採用できますが、ほとんど採用されていません。

会計期間が12ケ月未満の場合の償却率等(法人)

期中に取得した資産については、通常は (12ケ月分の償却額×償却月数÷12)で月数按分をします。

法人の事業年度が1年に満たない場合は、次のように予め償却率等を変換(改定)して使用します(耐用年数省令)。

旧定額法(A)

改定償却率=旧定額法の償却率 × 月数 ÷ 12

(A)~(D)

月数の端数は切上げ(1月未満の場合は1月)

少数点以下3位未満の端数は切上げ

(B)

旧定率法の改定耐用年数が100を超える場合は、(12ケ月分の償却額×償却月数÷12)で月数按分する。改定耐用年数に1年未満の端数が生じたときは切捨てる。

旧定率法(B)

改定耐用年数=旧耐用年数 × 12 ÷ 月数 

改定耐用年数に対応する償却率

定額法(C)

改定償却率=定額法の償却率 × 月数 ÷ 12

定率法(D)

改定償却率=定率法の償却率 × 月数 ÷ 12

会計期間が12ケ月の法人で事業年度が1年に満たない場合には 設立初年度、仮決算による中間申告、解散年度、会計期間を変更した年度が該当します。それぞれ、通常の月数按分計算をする場合とどれほどの差異になるか、見ておきましょう。

(A)(C)(D)の場合

計算基礎額 × (償却率 × 月数 ÷ 12)

(償却率 × 月数 ÷ 12)を先に計算して少数点以下3位未満の端数は切上げる

月数按分計算の場合

計算基礎額 × 償却率 × 月数 ÷ 12

計算結果の端数処理は任意

両者の差は計算過程の端数処理によって生じますが、なぜこのような規定があるのか ?? ですが、この規定に従って計算すると、少数点以下3位未満に端数がある場合は、償却限度額が(若干ですが)大きくなります。

計算基礎額が  1,000,000円、 耐用年数が7年=償却率0.280 、月数が8ケ月 の場合

(B)の場合の改定耐用年数

7 × 12 ÷ 8=10.5年  耐用年数が10年の償却率 0.206

1,000,000 × 0.206 = 206,000

月数按分計算の場合

1,000,000 × 0.280 × 8 ÷ 12=186,666(端数切捨て)

改定耐用年数の端数切捨てによって、かなりの差が出ます。

●会計期間が6ケ月の法人の場合

定額法で計算する場合、12ケ月での計算結果との差は、償却率の端数処理の差だけです。定率法の場合はどうか? 確認しておきましょう。

計算基礎額を  1,000,000円 とします。

◆旧定率法で計算する場合

   耐用年数が7年 = 償却率  0.280

   改定 ⇒14年   = 償却率  0.152

1,000,000 × 0.152 = 152,000

    848,000 × 0.152 = 128,896

                       計             280,896

12ケ月の場合は

 1,000,000 × 0.280 = 280,000

◆定率法で計算する場合

   耐用年数が7年 = 償却率 0.357

   改定償却率         0.179

1,000,000 × 0.179 = 179,000

    821,000 × 0.179 = 146,959

                        計             325,959

12ケ月の場合は

 1,000,000  × 0.357=357,000

次の2期分の計算は

 674,041 × 0.179 = 120,653

 553,388 × 0.179 =   99,056

                           計    219,709

 

      643,000 × 0.357 = 229,551

 454,332 × 0.179 =   81,325

 373,007 × 0.179 =   66,768

                           計    148,093

 

     413,449 × 0.357 = 147,601

 306,239 × 0.179 =   54,816

 251,423 × 0.179 =   45,004

                           計      99,820

                            ⁞

                            ⁞

 

    265,848 × 0.357 = 94,907

●実務上の取扱いについて

会計期間が12ケ月の法人が中間申告、設立初年度或いは解散年度の申告で、上記のように改定償却率で限度額を計算せず、月数按分計算で限度額を計算していても、修正申告を求められることは ( ほぼ100% ) ありません 。

〔月数按分計算での償却限度額 ≦ 改定償却率での償却限度額 〕 ですから、徴税官庁にとっては敢えて修正を求める必要はない(はずでず)。また、旧定率法の場合を除いてその差は僅かで、(旧)定率法による計算では次年度以降の償却額で修正されますから ( 定率法の自動修正機能 )、申告する側にとってもそれほど大きな問題はないと言えます。また、解散年度に差額が出てもその後の清算申告で解消さます … と言うよりは、そんなことは端数処理程度の些細なことでしょう。

なお、個人事業の決算・申告書の(国税庁の)パンフレット等を調べてみても、減価償却費の計算に関して 「開業年度・廃業年度 の特例」等の記事は見つかりません。個人事業の場合は、開業年度・廃業年度であっても 「月数按分」方式 しかありません(無いようです)。減価償却については、個人・法人を問わず内容は共通のはずですが、なぜこのような規定があるのか??

■ 総合償却と除去価額

機械・装置について、設備を構成する個々の機械・装置毎の償却額は計算せずに、「○○設備」を一括して償却対象にする場合を総合償却といいます。総合償却を行う場合は個々の機械・装置の帳簿価額が明らかでないので、除去等の場合はその処理に困ります。

税務では次のように、その取扱いが定められています(通達)。

償却費の額が配分されていない場合

●総合耐用年数によって未償却残額を算出する ⇒ 償却率は総合耐用年数に対応した率

定額法

取得価額 × (1-0.9 × 旧償却率 × 経過年数)

取得価額 × (1-償却率 × 経過年数)

定率法

取得価額 × (1-旧償却率) ^ 経過年数

取得価額 × (1-償却率) ^ 経過年数

●個別耐用年数によって未償却残額を算出する ⇒ 償却率は個別耐用年数に対応した率(計算方法は上と同じです)

償却費の額を配分する場合

総合耐用年数が10年で、定率法の償却率が 0.250 の場合

配賦前の償却額 = 10,000,000 × 0.250 = 2,500,000

●個別耐用年数に応じて配分する方法 ⇒ 配賦額 = 配賦前の償却額 × 百分比

個々の資産

取得価額(万)

個別耐用年数

償却率

償却限度額

百分比

配賦額

400

10

0.250

1,000,000

0.3902

975,500

300

9

0.278

834,000

0.3254

813,500

200

12

0.208

416,000

0.1623

405,750

100

8

0.313

313,000

0.1221

305,250

1000

 

 

2,563,000

1.0000

2,500,000

●総合耐用年数に応じて配分する方法 ⇒ 配賦額 = 配賦前の償却額 × 償却率(0.250)

個々の資産

取得価額(万)

配賦額

400

1,000,000

300

750,000

200

500,000

100

250,000

1000

2,500,000

上記はいずれも取得初年度での計算例です。取得の翌年度以降は「取得価額」を「期首残額」に再計算していく必要があります。

■ 個人事業の強制償却について

個人事業者の減価償却は強制償却ですが、これは次のような意味です。

取得価額   1,000,000円、 耐用年数が5年の資産を1月に取得し、定額法で償却する予定であったが、諸事情により取得した年度とその翌年度は減価償却費を計上しなかった。

 

1年目

2年目

3年目

4年目

5年目

6年目

7年目

償却すべき額

200,000

200,000

200,000

200,000

199,999

 

 

償却費の経理額

200,000

200,000

200,000

200,000

200,000

必要経費算入額

200,000

200,000

199,999

償却すべき額を償却費として経理した場合 (決算書・収支内訳書に記載した場合) に、その額が必要経費になりますが、償却費として経理しなかった場合(決算書・収支内訳書に記載しなかった場合)には、経費として処理する権利が消滅します。

製作・著作 協進会  2009/12   ( 2010/04 補筆 )


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