1.法人の設立
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2006年4月まで
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株式会社・有限会社と役員
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株式会社にするか有限会社にするかで最低資本金(出資金)・最低役員数などが異なります。
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最低資本金(出資金) |
役
員 |
広告義務 |
株式会社 |
1,000万円 |
取締役3名以上
監査役1名以上 |
任期は2年 |
有 |
有限会社 |
300万円 |
取締役1名以上
監査役は任意 |
任期は無期限 |
なし |
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消費税
… 株式会社の最低資本金は
1,000万円ですから、設立第1期及び第2期は課税売上高の如何に関わらず消費税の納税義務が生じます。出資金が
1,000万円未満の有限会社であれば、設立第1期及び第2期は納税義務が免除されます。
会社設立に伴って多額の設備投資をする場合は、仮払消費税>預り消費税となるかもしれません。本来であれば差額が還付されますが、免税事業者では還付申告ができません。このような状況が見込まれる場合は「消費税課税事業者選択届出書」を提出して、還付申告することができます。
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設立第1期の末日までにこの届出書を提出します |
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第2期も課税事業者になります。従って、第1期の還付額より第2期の納付額が多い場合は節税になりません。
また、第1期の課税売上高が
1,000万円以下(平成16年4月以後)の場合は、第2期の末日までに「消費税課税事業者選択不適用届出書」を出さないと、第3期も課税事業者になりますので注意が必要です。 |
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有限会社に監査役が必要かは、実態に合わせて判断することが必要です。経理(会計)の知識も経験もないのに名前だけの監査役をおいて、余分な仕事を増やしている有限会社が多々あります。
法人税等の申告書の提出期限は期末の翌日から2ケ月です。2月の間に「決算
⇒ 決算承認 ⇒
申告」をしなければなりません。この間に会計監査が入ると、これに2週間ほど日程を割くことになります。監査も入れて全てを2ケ月でこなすには、かなり高い経理(会計)レベルが必要です。
定款に「総会は期末から3月以内」等としておけば、申告期限の延長は認められますが、その間の利息相当分が法人税等に上乗せされます。 |
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法人成りの場合、家族全員を役員にすることが多いのですが、役員の場合は賞与が税法上の損金になりません(原則)。役員賞与は会社が経費として処理していても、法人税等を計算する場合は経費でないとして所得金額(課税対象額)を算定します。
ただし税法では、使用人兼務役員という考え方があります。役員ではあっても、使用人(非役員)と同じ役職に付いており、給与も同じ基準で計算され・同じ日に支給されている人が該当します(具体的には「取締役○○部長」など)。使用人兼務役員については、賞与のうち使用人分相当額は税法でも損金(経費)になります。
役員でなく一般従業員として雇用すれば、給与・賞与は全て税法でも損金(経費)になります。これが原則ですが、平成10年の税制改正で次のようになりました。
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役員の親族である使用人に対する給与の額のうち、不相当に高額な部分の金額は損金に算入しない |
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役員の親族である使用人に対し支給する退職給与の額のうち、不相当に高額な部分の金額は損金に算入しない |
だれを役員にするかを検討する際の参考にしてください。 |
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現物出資
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法人成りの場合は個人事業から営業を引き継ぎます。事業に必要な資産(店舗、事務所、車両、商品など)も引き継いで会社の運営を開始することができれば、設立に必要な資金は最低資本金(出資金)と設立費用だけで済みます。
会社の設立に当たっては、金銭以外の現物を出資することもできます。また、現物出資にすれば会社が個人資産を借用することもなくなりすっきりします。しかし、残念ながら現物出資はきわめて困難です。
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裁判所が選任した検査役による調査が必要です(取締役が裁判所に検査役の選任を請求します)。 |
現物出資をするとなると、個人から会社への移行の間はしばらく休業せざるを得ません。現物出資する資産の評価と調査の時間が必要になるからです。また、定款にその旨の記載がなければ無効になります。
ただし、次に該当する現物出資の場合は検査役による調査は不要です。
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現物出資の総額が、資本(出資)総額の1/5以下で、かつ500万円以下の場合 |
● |
取引所の相場のある有価証券であって受入れ価額がその相場を超えない場合 |
● |
現物出資する資産が不動産であって、不動産鑑定士の鑑定評価もとづく弁護士の証明を受けた場合 |
現物出資がなければ、休業なしに個人から会社への移行が可能ですから、実際には現物出資をしない場合がほとんどです。現物出資をせずに事業に必要な資産を使用するわけですから、会社設立後に資産を買い取るか個人から借用することになります。この点は「設立当初の経理」で改めてお話します。 |
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特例法
現在最低資本金、現物出資などに特例が設けられています。
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経済産業大臣の確認を受けることが要件ですが、ほとんどの人が適用対象です。
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設立後5年間は最低資本金が適用されませんから、資本金(出資金)が1円でも会社を作ることができます。 |
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現物出資については、株式会社の場合は200万円未満、有限会社の場合は60万円未満であれば、検査役による調査は不要です。 |
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5年以内に最低資本金以上に増資しなければなりません。増資できない場合は、合名会社・合資会社への組織変更或いは解散しなければなりません。 |
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2006年5月以降
2006年5月から「新会社法」が施行されました。以下概略をまとめておきます。
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有限会社は廃止されました。既存の有限会社はそのまま存続させることができます。 |
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資本金の制限はありません(1円でも設立できます)。 |
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定款の記載事項が大幅に緩和されました。 |
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定款で株式譲渡の制限をするか否かが、会社の性格を決定します。
株式譲渡の制限をしない会社(公開会社) |
株式譲渡の制限をする会社(株式譲渡制限会社) |
取締役は3名以上で取締役会を構成する |
取締役会を置かないことができる(取締役は1名でも可) |
監査役の設置が必要 |
監査役の設置は任意 |
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簡単に言えば、株式譲渡制限会社は従来の有限会社のような株式会社といえそうです。 |
新会社法による株式会社の設立については、多くのサイトが取り上げていますが、次のサイトがお勧めです。
◆新会社法のホームページ (勝手にリンクさせていただきした) |
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創業費
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登記費用、印鑑の作成費、司法書士さんへの報酬(料金)支払額、設立のための人件費(報酬)などが創業費に該当しますが、創業費の扱いは商法と法人税法では異なります。
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商法
…
創立に係る費用を会社が負担する旨を定款に記載しなければならない |
● |
法人税法(通達)
…
定款に記載がなくても「創業費」として計上し、償却は任意とする |
一般には法人税法の解釈に従って処理されているようです。 |
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設立届など
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■税務
提出先 |
提出書類 |
添付書類 |
提出期限 |
税務署
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法人設立届書 |
定款(写し)
登記簿謄本
株主(社員)名簿
現物出資者名簿(*)
設立趣意書(*)
設立時の貸借対照表(*)
本店所在地の略図 |
設立後2月以内 |
青色申告の承認申請書 |
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設立後3月以内 |
たな卸資産の評価方法の届出書 |
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初めの確定申告書の提出期限
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減価償却資産の償却方法の届出書 |
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給与支払事務所等の開設届出書 |
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設立後1月以内 |
源泉所得税の納期特例 |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する届出書 |
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適用を受ける前月末日 |
納期の特例適用者に係る納期限の特例に関する届出書 |
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12月20日 |
道府県税事務所 |
法人設立届書 |
定款(写し)
登記簿謄本 |
設立後1月以内(道府県により異なります) |
市町村 |
法人設立届書 |
定款(写し)
登記簿謄本 |
設立後1月以内(市町村により異なります) |
東京特別区の場合 |
法人設立届書(法人税の届書との複写用紙) |
定款(写し)
登記簿謄本 |
設立後15日以内 |
(*) |
現物出資者名簿
… 現物出資の受け入れがある場合 |
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設立趣意書
… 普通法人では、通常添付不要 |
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設立時の貸借対照表
…
現物出資の受け入れがなければ、極めて簡単なものになります。
資 産 |
負 債 ・ 資 本 |
現金預金
創業費 |
5,000,000
325,000 |
未払費用
資本金(出資金) |
325,000
5,000,000 |
合 計 |
5,325,000 |
合 計 |
5,325,000 |
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■社会保険
健保・年金の届出は5日以内、労災・雇用保険の届出は10日以内となっています。それぞれの届出書の添付書類については、各届出書の注意書きなどで確認してください。
保険の種類 |
既に加入している場合 |
新規に加入する場合 |
届 出 書 |
添付書類等 |
届 出 書 |
添付書類等 |
健保・年金
(社会保険事務所)
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健康保険・厚生年金保険適用事業所所在地・名称変更(訂正)届
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登記簿謄本
全員の健康保険証(健康保険の記号が変わる場合) |
新規適用届
新規適用事業所現況書
★被保険者取得届
★健康保険被扶養者届 |
登記簿謄本
賃貸借契約書
労働者名簿・出勤簿・賃金台帳等 |
労災
(労働基準監督署)
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労働保険名称・所在地等変更届 |
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保険関係成立届 |
概算保険料申告書 |
雇用
(職業安定所)
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雇用保険事業主各種変更届 |
登記簿謄本 |
適用事業所設置届
★被保険者取得届 |
登記簿謄本
保険関係成立届
労働者名簿・出勤簿・賃金台帳等 |
新規に加入する場合の注意
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社会保険(健保・年金)の新規加入に当たっては「社会保険調査官」が調査を実施します。そのため、社会保険事務所によっては受付方法・日時を指定しているところもありますから、事前に問い合わせるとよいでしょう。 |
● |
「保険関係成立届」を提出してから「適用事業所設置届」を提出するため、労働基準監督署⇒職業安定所の順に役所(?)を回ることになりますが、職業安定所によっては「保険関係成立届」も受理するところもありますから、これも事前に問い合わせるとよいでしょう。 |
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2.個人事業の廃業
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個人事業の廃業に伴い、次の届が必要になります。
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提出先 |
提出種類など |
提出期限 |
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税務署 |
所得税⇒個人事業の開廃業等届出書
消費税⇒事業廃止届出書(課税事業者であった場合) |
廃止の日から1月以内
速やかに |
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都道府県 |
個人事業税の申告 |
廃止の日から1月以内 |
●廃業年度の所得税
廃業年度もそれまでの年度と同様に確定申告をします(申告時期も同じです)が、所得額の計算については次の点に留意してください。 |
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減価償却費の計算
… 実際に使用した月数で計算します。 |
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専従者控除
…白色申告の場合は従事期間が6ケ月を越えていれば、
青色申告の場合は従事期間が廃止日までの期間の1/2を越えていれば控除できます。 |
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廃業年度の事業税
…
事業税は通常は納税額の通知のあった年度の必要経費としますが、廃業年度は未払計上することができます。また、未払計上していない場合は、要納税額の判明後2月以内に廃止年度の更正請求をすることもできます。 |
●廃業年度の個人事業税(地方税法72条の55①)
通常の年度あれば所得税の確定申告が個人事業税の申告を兼ねていますから、別個に申告する必要はありませんが、廃業年度は別個に申告する必要があります。
ただし、廃業年度分の事業所得に対して事業税が発生しない場合は申告不要です。
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3.設立第1期
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設立当初の経理
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金銭出資だけで会社を設立(法人成り)すると、設立直後の資産は出資払込金(預金)だけです。目の前に店舗・事務所・車両・商品などがあっても、全て会社のものではありません。会社として事業を始めるには、それらの資産を賃借しなければなりません。賃貸人は所有者(おそらくは会社の役員
… ただし、個人としての役員)です。
会社が借り受ける資産については、次のような処理・取り決め(所有者である役員個人と会社との契約)が必要になります。
棚卸資産(商品、消耗品等) |
設立後しばらくしてから買い取る |
設立直後の買取りは商法上問題がある(隠れ現物出資?) |
店舗・事務所・倉庫等 |
適正な保証金、家賃を会社が払う |
個人と会社との間に、賃貸借契約書を作成する
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設備・備品等 |
使用料を会社が払う |
店舗・事務所・倉庫等がテナントの場合の保証金 |
契約を個人から会社に変更し会社が保証金を支払うか、保証金相当額を個人からの借入金とする |
個人からの借入金とする場合は契約書を作成する |
● |
棚卸資産については、設立直後には次の処理をしておけばよいでしょう。
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たな卸商品
貯蔵品 |
2,800,000
200,000 |
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未払金〔借入金〕
(役員○○分) |
3,000,000 |
後日会社が買い取れば未払金〔借入金〕が消えます。
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未払金〔借入金〕
(役員○○分) |
3,000,000 |
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現金・預金 |
3,000,000 |
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● |
現金や預金まで引き継いだ(或いは個人名義の預金を会社で使用している)場合も、棚卸資産と同じ処理が必要です。
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● |
休業を挟まずに、個人事業から法人に移行した場合は、個人事業の期間に仕入れた商品代金の支払い等の処理が混乱し易いので、注意が必要です。
個 人 |
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仕入 350万円 |
凹 支払 350万円 |
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法 人 |
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凸 売上金
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個人事業の最後の月に商品の仕入が350万円であったとします。末締めの翌月20日払いであれば、この買掛金は個人が20日までに払わなければなりません。法人成りに伴って、数百万円或いは一千万以上の出資をしていますから、個人の手持ち資金に余裕がない場合が多いのです。一方、会社の方には売上金が入ってきています。
個人に支払いの資金がなければ、会社から借り入れる(会社が貸し付ける)のが便方です。
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貸付金
(役員○○) |
3,500,000 |
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現金・預金 |
3,500,000 |
更に貸付金と、設立直後の棚卸資産の未払金(又は借入金)を相殺することもできます。
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未払金〔借入金〕
(役員○○分) |
3,000,000 |
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貸付金
(役員○○) |
3,000,000 |
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● |
個人事業の期間の売掛金がある場合は、上の買掛金の逆です。本来個人への入金としなければならいものを会社への入金としていれば、個人に対する未払金或いは個人からの借入金になります。
売掛金・買掛金の両方がある場合で、どちらも会社の処理にしている場合は、どちらか一方が消えるまで相殺することができます。 |
● |
店舗・事務所・倉庫等の不動産が個人資産の場合は家賃を、設備・備品・車両等が個人資産の場合は使用料を会社が(役員)個人に支払います。
同族会社に限らず小さな会社では、役員個人と会社の間での賃貸借が多く見られます。役員と会社との間に賃貸借があれば、役員個人の所得税の確定申告(給与所得及び雑所得・配当所得など)が必要です。 |
● |
店舗・事務所・倉庫等の不動産を第三者から賃借りしている場合で、個人事業の開始時にその保証金を支払っている場合は、その保証金をどうするか検討しなければなりません。これは、不動産の賃借人を個人から法人に変更するか否かとは別個のことです。
不動産を賃借りして現に使用しているのが個人から法人に変わったわけですから、契約者の名義に関わらず保証金は会社が負担すべきものとなります。会社の資金に余裕があれば、会社が保証金を出せばよいのですが、資金に余裕がなければ個人からの借入金とする必要があります(実際に金銭の授受をすることはありません)。また、借入金に見合う利息相当額も計上しなければなりません。
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テナント保証金
支払利息
(役員○○借入分) |
5,000,000
250,000 |
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借入金
現金預金 |
5,000,000
250,000 |
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第1期の法人税・地方税の申告書
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設立第1期の営業日が、丸々12ケ月になることはまずありません。端数処理で12ケ月となる場合でも、厳密には11ケ月と○○日になります。設立第1期の法人税・地方税の申告にあてった、月数処理に関連する項目のうち主なものを一覧表にしておきます。「申告は全て税理士さん」の方は、この項目は読み飛ばしてください。
区 分 |
別 表 |
摘要(計算式等) |
端数処理 |
法人税
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別表1(1) |
中小法人の「年800万円以下相当額」
⇒ 800 × 月数 ÷ 12 |
1月未満切上げ |
別表3(1) |
「課税留保金額(3段階の金額)」×
月数 ÷ 12 |
別表11(1) |
実績割合による貸倒れの発生割合 |
別表14(2) |
寄付金の損金算入限度額(資本金基準)を計算する場合の月数 |
1月未満切捨て |
別表15 |
交際費の定額控除限度額を計算する場合の月数 |
1月未満切上げ |
別表16 |
減価償却限度額の計算 |
中古資産の耐用年数の見積り計算(簡便法)
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● |
法定耐用年数の全部を経過したもの |
法定耐用年数
× 2 0 ÷ 100 |
● |
法定耐用年数の一部を経過したもの |
(法定耐用年数
- 経過年数)
+(経過年数
× 20 ÷ 100 ) |
1年未満の端数は切捨て(ただし2年に満たない場合は2年) |
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住民税 |
道府県民税、市町村民税の均等割額 |
1月未満切捨て(1月に満たない場合は1月) |
事業税 |
軽減税率適用法人の所得金額
⇒ (3段階の金額)×月数÷12 |
1月未満切上げ |
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第1期の償却資産申告書
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設立第1期目の申告は、所有する全ての資産を申告する「全資産申告」になります。この申告をもとにして、市町村が新たに課税台帳を作成します。
第2期目以降の申告は、前年中に取得した資産(増加資産)と前年中に売却・廃棄等した資産(減少資産)だけを申告します。ただし、償却資産の管理をコンピュータで処理している場合で、償却資産申告書もコンピュータで作成する場合は2期目以降も「全資産申告」をすることになっています。
詳しくは「償却資産申告書の書き方」を参照してください。
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