1.固定資産の売買など
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問題になるのは次の場合です。
会社が役員から購入 |
著しく高額で購入(ィ) |
著しく低額で購入(ロ) |
会社が役員に譲渡 |
- |
著しく低額で譲渡(ハ) |
(ィ) |
役員所有の土地(時価 30,000,000円)を会社が
50,000,000円で購入した場合。
土地 |
50,000,000 |
現金預金 |
50,000,000 |
|
税務では時価との差額は役員賞与とみなします。
土地
役員賞与 |
30,000,000
20,000,000 |
現金預金 |
50,000,000 |
|
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(ロ) |
役員所有の土地(時価 30,000,000円)を会社が
18,000,000円で購入した場合。
土地 |
18,000,000 |
現金預金 |
18,000,000 |
|
税務では時価との差額を受贈益とみなします。
土地 |
30,000,000 |
現金預金
受贈益 |
18,000,000
12,000,000 |
|
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(ハ) |
会社所有の乗用車(帳簿価額及び時価 2,500,000円)を役員に
1,000,000円で譲渡した場合。
現金預金
固定資産売却損 |
1,000,000
1,500,000 |
車両
|
2,500,000
|
|
税務では時価との差額を役員賞与とみなします。
現金預金
役員賞与 |
1,000,000
1,500,000 |
車両
|
2,500,000
|
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役員賞与は法人税では損金不算入、役員個人は所得税の増額になります。
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2.不動産などの賃貸借
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適正な地代・家賃、使用料を設定している場合は、なんら問題はありません。時価(世間相場)に比べ著しく高額であったり、低額であったりすると問題になります。
問題になるのは次の場合です。
役員が会社に賃貸している場合 |
著しく高額での賃貸(ィ) |
- |
会社が役員に賃貸している場合 |
- |
著しく低額での賃貸(ロ) |
(ィ) |
役員所有の土地を会社が
月額 200,000円(相場は 100,000円)で借りている場合。
税務では相場との差額は役員報酬とみなします(毎月の支払いのため報酬になります)。
地代
役員報酬 |
100,000
100,000 |
現金預金 |
200,000 |
役員の源泉所得税の徴収はこの
100,000円を含めた額が対象となります。 |
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(ロ) |
会社所有の別荘を役員に月額
20,000円(相場は 100,000円)で貸し付けている場合。
税務では相場との差額を役員報酬とみなします(毎月の支払いのため報酬になります)。
現金預金
役員報酬 |
20,000
80,000 |
家賃収入 |
100,000 |
役員の源泉所得税の徴収はこの
80,000円を含めた額が対象となります。 |
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3.資金の貸借
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適正な利率を設定している場合は、なんら問題はありません。世間相場に比べ著しく高率であったり、低率であったりすると問題になります(無利息の場合も当然含みます)。なお、適正利率は常に変動しますから、その時々で判断してください。
問題になるのは次の場合です。
会社が役員から借入れをしている場合 |
著しく高率での借入れ(ィ) |
- |
会社が役員に貸付けている場合 |
- |
著しく低率での貸付け(ロ) |
(イ) |
会社が役員から 10,000,000円の借入れをして、年10%の利息を支払っている場合(適正利率を5%とします)。
支払利息 |
1,000,000 |
現金預金 |
1,000,000 |
|
税務では相場との差額は役員賞与とみなします。
支払利息 役員賞与 |
500,000
500,000 |
現金預金 |
1,000,000 |
|
|
(ロ) |
会社が役員に 10,000,000円の貸付をして、年2%の利息を徴収している場合(適正利率を5%とします)。
現金預金 |
200,000 |
受取利息 |
200,000 |
|
税務では相場との差額は役員賞与とみなします。
現金預金
役員賞与 |
200,000
300,000 |
受取利息 |
500,000
|
|
|
役員賞与は法人税では損金不算入、役員個人は所得税の増額になります。
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4.渡切交際費
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役員の交際費を月額幾らと決めておいて、使用した額だけ(使途が判明した分だけ)経理処理をする場合、精算されない金額は役員への報酬になります。
会社の経理としては、役員へ交際費を渡すときは仮払金又は前払金で処理します。
仮払金(前払金)
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100,000
|
現金預金
|
100,000
|
月末の精算時に使途判明分については、交際費に振り替えます。
交際費
|
75,000
|
仮払金(前払金)
|
75,000
|
残額は、税法(通達)では役員への報酬にしなければなりません。使途判明分のうちに業務と無関係の支出がある場合も同様です。従って、税務上の処理は次の通りです。
交際費
役員報酬
|
75,000
25,000
|
仮払金(前払金) |
100,000
|
|
5.役員報酬・退職金・役員賞与など
|
■
定時同額給与/事前確定届出給与
役員報酬については、定時同額給与と事前確定届出給与が損金になります。その他、業績連動給与、ストックオプションなどに関する規定もありますが、中小法人には縁がなさそうなので略します。定時同額給与と事前確定届出給与であっても、過大な給与、不正経理による支給額は損金不算入となります。
●定時同額給与
「定時同額」とは事業年度を通して毎月(毎週)一定額を支給するということですが、事業年度の初めの月から同額を支給する
…
ということではありません。次の改定時期から同額を支給する場合が該当します。
● |
定期改定 |
事業年度開始日から3ケ月以内の改定 |
● |
臨時改定 |
役員の地位の変更、職務内容の重大な変更などによる改定 |
● |
業績悪化改定 |
業績悪化による減額改定 |
●事前確定届出給与
いわゆる役員賞与を支給する場合は、事前に支給時期と支給額を定め、「事前確定届出給与に関する届出書」を提出しておく必要があります。提出期限は次のうちのいずれか早い日です。
●株主総会の議決日から1ケ月以内 ●職務執行開始日から1ケ月以内 ●事業年度の開始日から4ケ月以内
●
過大役員給与
過大役員給与は法人税法上の損金になりません(申告調整で過大部分の金額を所得加算しなければなりません)。過大役員給与に該当するか否かは、次の2点で判定します。
● |
役員の職務の内容・会社の業績、一般従業員の給与水準、同業同規模の法人の役員報酬の額に比べ不相応に高額であるか否か |
● |
定款の規定、株主(社員)総会等で役員報酬の支給限度額を定めている場合は、その限度額を超えるか否か |
●
仮装・隠蔽して支給した役員給与
その全額が法人税法上の損金になりません(申告調整で所得加算しなければなりません)。
■
役員退職金
損金経理していない役員退職金、損金経理した役員退職金のうち過大役員退職金に該当する部分の金額は、法人税法上の損金になりません(申告調整で過大部分の金額を所得加算しなければなりません)。
過大役員退職金に該当するか否かは、次により判定します。
● |
役員の在職期間、退職の事情、同業同規模の法人の役員退職金の額に比べ不相応に高額であるか否か |
■
兼務役員の使用人分賞与
使用人兼務役員の使用人分賞与については損金算入となりますが、次の点に留意が必要です。
● |
他の使用人(非役員)と同じ基準で賞与支給額が算定されていること |
● |
他の使用人(非役員)と同じ支給日に、実際に支給すること(未払計上は不可) |
■
役員の親族などである使用人の給与・退職金
役員の親族などである使用人に対して支払った給与・退職金のうち、不相応に高額な部分は損金不算入となります。不相応に高額か否かは、次により判定します。
● |
本人の職務の内容・会社の業績、他の従業員の給与水準、同業同規模の法人の給与水準に比べ、不相応に高額であるか否か |
|
6.配当について
|
役員賞与はその全額が損金不算入です(平成18年3月まで)。小さな会社ではほとんどの場合、株主(出資者)=役員ですから配当の効用について検討してみたいと思います。
配当は税引き後の利益がその財源です。一度課税された後の利益が分配されるのですから、配当を受ける人(又は会社)に更に課税すると二重課税になります。法人税で受取配当金の益金不算入を、所得税で配当控除の制度を設けている所以です(ただし、100%の二重課税回避にはなっていない)。
■
特定同族会社で課税留保金額が発生する場合
お断り
…
平成18年4月以後は特定同族会社が、更に平成19年4月以後は大法人の特定同族会社だけが、留保金課税の対象となっていますので、参考程度に読んでください。
決算で利益が出た場合は、累積欠損がなければ普通は株主(出資者)に配当をします。同族会社の場合、個人での課税を回避するため配当をせず(又は極めて小額の配当を実施して)、社内に留保することが可能になります。これでは、税負担の不公平が生じるので特定同族会社の留保金額のうち、一定額を超える部分には特別に課税されます(この制度の説明は こちら を参照してください)。
課税留保金額が
1,000万円と予測される場合、この
1,000万円を配当すると節税になるか否か?
まず、配当に回わさず留保金課税を受け入れる場合は、約
120万円の増税となります。
課税留保金額が
1,000万円 |
特別に課税される法人税(10%) |
100万円 |
住民税の法人税割(法人税額の約20%) |
20万円 |
次に
1,000万円を配当するとどうなるか?株主(出資者)が3名で全員役員とします。また、各人の年間の所得金額は次の通りとします。
役員 |
給与所得金額
(給与所得控除後の金額) |
配当
所得 |
合
計 所
得
金 額 |
所 得
控除額 |
課税される
所得金額 |
所得税+ 住民税額 |
配
当
控
除 |
配当金の源泉徴収税額 |
所得税+ 住民税額 |
A |
2,000 |
|
2,000 |
150 |
1,850 |
645 |
|
|
645
|
B |
1,500 |
|
1,500 |
120 |
1,380 |
439 |
|
|
439 |
C |
1,200 |
|
1,200 |
100 |
1,100 |
319 |
|
|
319 |
配当を実施しない場合です(金額:万円) |
1,403 |
A |
2,000 |
500 |
2,500 |
150 |
2,350 |
895
|
32 |
100 |
763
|
B |
1,500 |
300 |
1,800 |
120 |
1,680 |
568
|
19 |
60 |
489
|
C |
1,200 |
200 |
1,400 |
100 |
1,300 |
405
|
13 |
40 |
352
|
配当を実施する場合です(金額:万円)。配当控除は3名とも配当所得の6.4%(所得税5%、住民税1.4%)です。 |
1,604
|
【お断り
… 住民税の税率は平成20以後の税率(一律10%)としています。また、所得控除額なども所得税と同額とし、調整控除も無視しています。
】
以上の結果をまとめると次の通りです。
|
会社(法人税等) |
個
人 |
配当の源泉所得税 |
比 較 |
配当を実施しない |
120万円の増税 |
1,403万円 |
- |
1,523万円 |
配当を実施する |
- |
1,604万円 |
200万円 |
1,804万円 |
個人の税率(所得税+住民税)は、「課税される所得金額」が
900万円を超えると43%、 1,800万円を超えると50%ですが、留保金額に対する税率は10%(3,000万円を超える部分は20%、1億円を超える部分は30%)+α(住民税分)ですから、税率の差でこのような結果となりました。
■
配当にするか臨時役員賞与にするか
次に、課税留保金額がない場合で利益金額を配当にするか賞与(税法上は損金不算入)にするかを比較してみます。配当又は賞与の原資が
200万円とします。
役員 |
給与所得金額
(給与所得控除後の金額) |
配
当
所
得 |
合
計 所
得
金 額 |
所
得
控除額 |
課税される
所得金額 |
所得税+ 住民税額 |
配当
控除 |
配当金の
源泉徴収税額 |
所得税+ 住民税額 |
A |
900 |
|
900
|
100 |
800 |
200 |
|
|
200 |
B |
560 |
|
560
|
70 |
490 |
104 |
|
|
104 |
C |
440 |
|
440
|
60 |
380 |
71 |
|
|
71 |
賞与を支給する場合です(金額:万円) |
375 |
A |
800
|
100
|
900
|
100
|
800
|
200
|
13
|
20
|
167
|
B |
500
|
60
|
560
|
70
|
490
|
104
|
8
|
12
|
84
|
C |
400
|
40
|
440
|
60
|
380
|
71
|
5
|
8
|
58
|
配当を実施する場合です(金額:万円)。配当控除は3名とも12.8%(所得税10%、住民税2.8%)です。 |
309
|
以上の結果をまとめると次の通りです。
|
会社(法人税等) |
個 人 |
配当の源泉所得税 |
比 較 |
賞与支給の場合 |
同額です |
375万円 |
- |
375万円 |
配当を実施する |
309万円 |
40万円 |
349万円 |
【お断り
…
住民税の税率は平成20以後の税率(一律10%)としています。また、所得控除額なども所得税と同額とし、調整控除も無視しています。
】
個人の所得税の税率
20%~23%、配当控除が10%の場合ですから、個人の所得額がもっと多い場合は差は少なくなります。しかし、配当控除が認められる限り、配当を実施する方が個人の税負担は少なくて済みます。
以上2例は極めて大雑把なシミュレーションですから、興味のある方は各自研究してみてください。
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