ご存知のとおり消費税の経理方法には「税込経理」と「税抜経理」があり、(消費税法上では)課税事業者はどちらかを選択することができます。
まず、この2つの経理方式の相違点を整理しておきましょう。
なお、消費税額の借方は「仮払消費税」で統一されているようですが、貸方は「仮受消費税」とも「預り消費税」とも呼ばれています。ここでは「仮受消費税」とします。
お断り 〔事例〕では税率を
5%にしていますので、8%(10%)増税後は消費税額が異なってきます。
【1】 |
消費税の計上時期(税込経理)
税抜経理の場合は、損益には無関係ですから計上時期の問題はありません。税込経理の場合はいつ計上するかの問題があります。
①事業年度末に未払計上する
②消費税の納付時に計上する
の2とおりの方法が考えられますが、会計原則からいえば①にすべきでしょう。
なお、法人税法では税込経理の場合の消費税の損金算入時期は法人の経理通りですから、①の場合は当該事業年度の、②の場合は翌期の損金になります。
なお、個人事業者の場合も同様です。
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【2】 |
個別計上(積上げ)方式・期末一括方式(税抜経理)
税込経理の場合は一事業年度分を一括して処理することになりますが、税抜経理の場合は取引の都度消費税を別途計上するか、期末に一括して計上するかを選択することができます。
個別計上(積上げ)方式は、「決済の際に受領すべき金額について1円未満の端数を処理」する方式(旧消費税法施行規則22条第1項)ですから、端数の切捨て或いは切上げが累積します。一事業年度の取引数が多い場合は期末一括方式に較べ、相当の金額誤差が生じます。
〔例〕 |
年間
360,000人の来客がある、スーパーの場合。
1人当たりの平均購買金額 2,000円、全額課税品、消費税の端数処理は切捨てとします。
端数が生じない場合は
●売上金額 720,000,000円 ●消費税額
36,000,000円
ですが、1人当たりの消費税の端数処理は最小で
0.00円(端数なし)、最大で 0.95円ですから、平均で
0.475円切捨てることになります。従って
360,000(人)×0.475=171,000円 程度の切捨て額となりますから、
●売上金額 720,000,000円 ●消費税額
35,829,000円 (4.976%)
となっても、これは正しい処理となります。
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【補足】 |
個別計上(積上げ)方式で消費税額を処理する場合の留意点
継続取引の場合には取引の都度代金を領収せず、月末締の翌月○○日払いとすることが一般的です。このような場合には、簿記上の取引は納品の都度売掛金が発生しますから、これを記帳すると次のようになります(消費税額の端数処理は切捨てとします)。
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売掛金
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227,102
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売
上
仮受消費税 |
216,288
10,814 |
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売掛金
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198,711
|
|
売
上
仮受消費税 |
189,249
9,462 |
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売掛金
|
321,674
|
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売
上
仮受消費税 |
306,357
15,317 |
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●相手方への請求額
納品額 711,894
消費税額 35,594 計 747,488
●帳簿上の金額
売上額 711,894
消費税額 35,593 計 747,487 |
消費税法(旧施行規則22条第1項)で特例としているのは、「決済の際に受領すべき金額について1円未満の端数を処理した場合」ですから、消費税の申告・納付に際しては、上の例では
35,594円を消費税額としなければなりません。
税法上の消費税額と帳簿上の消費税額を合致させるには、請求書作成の際に端数差額を修正仕訳するか、請求書作成までは本体価額のみ計上し月末に消費税分を一括計上するか、何らかの工夫が必要になります。
以上は仮受消費税の処理方法の話ですが、仮払消費税の場合も同様です。
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【ついでの小研究】
上の例では本体価額の月締め合計額をもとに消費税額を計算して、相手方に請求しています。また、実務ではこの方法が一般的なようです。しかし、次のような計算をして請求書を発行している例もあります(第2法としておきます)。
納 品 日 |
納品額 |
消費税額 |
合 計 |
○月××日 |
216,288 |
10,814 |
227,102 |
○月△△日 |
189,249 |
9,462 |
198,711 |
○月□□日 |
306,357
|
15,317 |
321,674 |
当月納品額
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711,894
|
35,593
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747,487
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当月請求額 |
747,487
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「消費税法」「同施行令」には、課税標準と課税期間は規定されていますが、何時消費税が発生するかは規定されていないようです。
消費税法第28条① |
課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(………)とする。ただし…… |
消費税施行令45条① |
法第28条1項に規定する金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該権利を享受する時における価額とする。 |
この条文からは、取引(上の例では相手方へ納品した)時点で発生すると判断するのが妥当と思えますが如何でしょうか。そうであれば、上の例では第2法で処理すのが妥当ということになります。
また、請求時点で発生すると判断すれば、相手方から請求がなければ消費税は発生しない……?。もっとも、発生の話と課税期間・計算方法の話は別次元かも知れませんが。
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【3】 |
消費税と損益計算
税抜経理の場合は損益に無関係ですが、税込経理の場合は損益計算上の費用として処理します。両者には損益上
の差が生じるのでしょうか?簡単な例で示します。
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税込経理 |
税 抜 経 理 |
本体価額
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消費税額
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売上高 |
10,500
|
10,000
|
500
|
仕入高 |
7,350
|
7,000
|
350
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販売費・管理費 |
2,625
|
2,500
|
125
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当期利益(仮) |
525
|
500
|
25
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消費税 |
25
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当期利益 |
500
|
500
|
25
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本来消費税は事業者にとって損益とは無関係な税金ですから、経理処理の方法が損益に影響することは当然ですがありません。
経理処理の方法の違いではありませんが、次の場合は現行制度により損益に影響があります。
●経理処理額と納付額との差額(税抜経理の場合) |
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税込経理の場合は「納付額=費用」としますから、経理処理額と納付額との差額はありません。
税抜経理の場合は、仮受消費税と仮払消費税を1円の位まで計上し、期末に差額を未払消費税とします。納付額は
1,000円未満の端数を切捨てますから、切捨てた端数は雑収入等で処理します。
期末 |
仮受消費税 |
8,825,425 |
仮払消費税
未払消費税 |
7,042,109
1,783,316 |
納付時 |
未払消費税 |
1,783,316 |
現金・預金
雑収入 |
1,783,000
316 |
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●課税売上割合が95%未満の場合 |
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納付すべき消費税額は、原則として
(仮受消費税-仮払消費税)
の差額です。
売上高のうちに非課税取引があり、課税売上割合(課税売上の額/全売上の額)が95%未満の場合は「仮払消費税」の全額を差し引くことができません。差し引くことができない額だけ納付すべき消費税額が多くなります。
税込経理の場合は課税売上割合に関わらず期末に消費税額を計算しますから、経理処理の問題は生じません。税抜経理の場合は経理上の未払消費税額を超える部分の金額を費用として処理することになります。なお、具体的な説明は「消費税申告書の書き方」で説明します。
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【4】
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固定資産と消費税
固定資産のうち償却資産に該当するものは償却計算の対象となりますが、消費税法では償却の概念はありません。償却資産にかかる消費税も取得年度に処理します。
多額の設備投資等をした年度では、仮受消費税より仮払消費税の方が多くなることがあります。この場合は消費税申告書に「仕入控除額に関する明細書」を添付して還付請求します。
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