簿記のゴールは決算&決算書ですが、そこにたどり着くまでには幾つかの関所(ハードル)があります。ある人は簡単に通り過ぎるかもしれません。ある人はそこで立ち止まって、ゴールインを諦めるかもしれません。
ここでの話しが、関所で迷っている人の助けになれば幸いです。
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借方、貸方は覚えなくてよい
借方・貸方は単なる符牒で、サイコロ賭博の丁・半と同じです。どっちが借方で、どっちが貸方だったか …… 普段使う言葉ではないので、混乱することがあります。そういう人は、借方・貸方は忘れてしまいましょう。「左・右」でもいいし、「L・R」でもいいのです。また、借方・貸方の意味付けはどこかの偉い先生に任せましょう。
一番大事なことは、右側に書くか・左側に書くかのルールです。このルールがないと複式簿記は成り立ちませんから、これだけは覚えなくてはなりません。
資 産 |
|
負 債 |
|
収 入 |
|
費 用 |
増える |
減る |
減る |
増える |
減る |
増える |
増える |
減る |
「増える」の反対は「減る」ですから、どちらか一方だけ覚えれば済みます。更にまとめてしまいましょう。
資 産 |
負 債 |
|
費 用 |
収 入 |
増える |
増える |
増える |
増える |
資本金や剰余金、損失金は? …… そんなことは、最後に覚えてください。上の4駒覚えただけで、普段の処理は出来るはずです。
現金で売上 |
資産増加、収入増加 |
現金 ***** / 売上金
***** |
掛で売上 |
資産増加、収入増加 |
売掛金
***** / 売上金 ***** |
現金で仕入 |
収入減少、資産減少 |
仕入 ***** / 現金
***** |
掛で仕入 |
収入減少、負債増加 |
仕入 ***** / 買掛金
***** |
売掛金回収(振込入金) |
資産増加、資産減少 |
預金 ***** / 売掛金
***** |
買掛金支払(手形) |
負債減少、負債増加 |
買掛金
***** / 支払手形 ***** |
家賃の支払(現金) |
費用増加、資産減少 |
家賃 ***** / 現金
***** |
銀行から融資を受けた |
資産増加、負債増加 |
預金 ***** / 借入金
***** |
ポイントは 中央部分 です。取引の内容を、「資産」「負債」「収入」「費用」に分解できるかどうか。これさえできれば、後は適当な名称(科目名)をつけて書き出せばいいだけです。
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形のあるものだけが資産ではなく、仮払金・売掛金・特許権・営業権など形のないものも資産です。 |
● |
売上、仕入、費用はいずれも発生した時点で処理します。掛売り・掛仕入れ・費用の後払いの場合は、決済が済むまでは売掛金・買掛金・未払金という債権・債務になっていますから、簿記でもその通りに記録します。
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発 生 時 |
決 済 時 |
掛売り |
売掛金
***** / 売上 ***** |
現金(預金) ***** / 売掛金 ***** |
掛仕入れ |
仕入 ***** / 買掛金
***** |
買掛金 ***** / 現金(預金)
***** |
費用の後払い |
○○費
***** / 未払金
***** |
未払金
***** / 現金(預金)
***** |
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どうしても借方・貸方が必要な時は、「貸借対照表」を思い出してください。これは右側から「貸借」になっていますが、仕訳の時はこの逆で「借」・「貸」になります。
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勘定科目は自分で作ろう
簿記の教科書では、たいてい「小口現金」を説明しています。
新聞代やお茶、事務用品代など少額の出費を賄うのは「小口現金」にして、給料・家賃など金額の大きなものは「現金」で処理することがあります。でも、どちらも現金には違いがありません。1円玉にも100円玉にも「小口現金」とは書いてありません。札束に「大口現金」と書いてあるのも見たことがありません。
事業規模が大きくなると、営業部・業務部・総務部(経理部)など専門の部署が必要になります。現金は経理部門が管理しますが、他の部署の小さな出費をその都度処理するのは煩雑です。そこで、いくらかの現金を部署ごとに渡しておいて、家計簿程度の出納帳に記録してもらいます。通常は、月単位で精算します。
小さな事業所では、現金を管理するのは1人だけの場合がほとんどです。にも関わらず、「小口現金」勘定を使わなければならないと信じ、その結果帳簿を複雑にして仕事を増やしている人がいます。実態がなければ無駄なことです。
逆に、適当な科目名が見つからない時はどうすれば良いか?
例えば、小さな会社で社長が自己所有の資産を会社に貸し付けて、賃貸料を貰っているとします。資産が家屋(事務所)や駐車場であれば「地代・家賃」でいいでしょう。自動車の場合は「リース料」「レンタル料」?…… 今ひとつしっくりきません。こんな時は、自分で一番判りやすい科目名を作りましょう。
普通預金の口座を2つ持っているとします。普通は仕訳をするときに、摘要欄に銀行名・口座名を記入してどちらの口座なのか判るようにします。
仕
訳
帳 |
日付 |
借 方 |
貸 方 |
備 考 |
科 目 |
金 額 |
摘 要 |
科 目 |
金 額 |
摘 要 |
**/** |
普通預金 |
525,000 |
××銀行 |
売掛金 |
525,000 |
△△商店 |
|
**/** |
水道光熱費 |
101,255 |
○月電気代 |
普通預金 |
101,255 |
××銀行 |
|
**/** |
普通預金 |
300,000 |
○○金庫 |
現金 |
300,000 |
|
|
:
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|
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|
|
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「普通預金」の代わりに 「××銀行普通預金」
「○○金庫普通預金」
とすれば、摘要欄に記入するまでもなく科目だけで口座別の残高がすぐ判ります。そう大したことではありませんが、勘定科目の常識に縛られなければこんなことも可能になる
……
試してみても損は無いと思います。
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仕訳は出納帳と同じ
現金出納帳は、たいていこんな形になっています。
日 付 |
摘
要 |
収
入 |
支
出 |
残
高 |
備
考 |
**/** |
普通預金引出し |
185,000 |
|
220,350 |
凸凹銀行 |
**/** |
主張費 |
|
47,800 |
172,550 |
鈴木太郎 |
**/** |
事務文具費 |
|
4,825 |
167,725 |
○○堂 |
**/** |
収入印紙 |
|
20,000 |
147,725 |
@200×100 |
収入=資産増加、支出=資産減少 です。しかも、左右別の列に記入しています …… 何かの形に似ています。そうです、仕訳です。1つ1つ見ていくと
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(収入) |
|
|
(支出) |
|
|
|
現金 |
185,000 |
|
普通預金 |
185,000 |
|
|
旅費交通費 |
47,800 |
|
現金 |
47,800 |
|
|
事務文具費 |
4,825 |
|
現金 |
4,825 |
|
|
租税公課 |
20,000 |
|
現金 |
20,000 |
|
になります。「現金」だけを集めて左右(収入・支出)に振り分けて記録するのが現金出納帳ですが、複式簿記のルールに従って記録しているのです。現金出納帳をつけると言う事は、現金取引について仕訳をしていることと同じです。現金出納帳がつけられれば、仕訳も出来る(?)ハズです。
経理ソフトの中には、出納帳をつければ仕訳が自動的に処理されるものがありますが、仕組みは上の通りです。
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損益は精算表パズルの答え
試算表は各勘定科目の金額(元帳の金額)を単純に合計したものです。金額は、貸借それぞれの合計額でもいいし、差額だけでも構いませんが、普通は科目の純額を知りたいので、差額(残高)で作ります。
借方は「資産・仕入・費用」、貸方は「負債・資本・売上(収益)」ですから、図で示すと次のいずれかになります。
資産
|
負債
資本 |
|
資産 |
負債
資本 |
|
売上収益
|
|
仕入
費用 |
仕入
費用 |
|
売上収益 |
|
試算表のうち、損益に関係する科目だけを取り出すと次のようになります。
仕入
費用 |
売上収益
|
又は |
仕入
費用 |
売上収益
|
A(当期利益) |
B(当期損失) |
(注)仕入は正確には「売上原価」です。
Aは当期利益、Bは当期損失ですが、残高試算表のうち残りの部分はどうなるでしょうか。
資産 |
A’ |
又は |
B’ |
負債・資本 |
負債・資本 |
資産 |
当期利益
当期損失
以外の合計額は同額ですから A=A’ B=B’ です。このように、会計上の損益は複式簿記の構造から簡単明瞭に導き出すことができます。逆に言えば、これを導き出すためにいつも貸借で仕訳しているとも言えます。
下の図は精算表の概略ですが、当期利益は「貸借対照表」欄と「損益計算書」欄では左右が入れ替わります。
◆貸借対照表欄では資本科目に準じた扱いとします(欠損の場合は、貸方に記載して減少とします)。
◆損益計算書欄では、(売上収益等-売上原価、費用)の差額として扱います。
〔残高試算表+整理仕訳 〕 |
〔貸 借 対 照 表 〕 |
〔損 益 計 算 書 〕 |
資産 |
負債・資本
|
売上 |
売上原価
費用 |
その他収益
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(売上+その他収益)-(売上原価、費用)=(当期利益) ですから、当期利益分だけ「資産」の金額も増えているはずです。当期利益がクロスワードパズルのキーワードのようになっています。
なお、当期が欠損の場合「当期損失」は、貸借対照表欄・損益計算書欄とも貸借逆に記載します。
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