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インボイス制度と免税事業者     

■ 令和5年10月から、インボイス制度がスタートします。

制度の内容や手続き、対応の準備などについては多数の解説書が出回っています。また、関連サイトも多数ありますので、ここでは免税事業者に関わる事項だけを取り上げます。免税事業者の事業者全体の売上げに占める割合は僅かでも、事業者数ではとても「僅か」とは言えません。

やや古い(平成21年〜22年)資料ですが、全事業者に占める課税事業者及び免税事業者の割合(推計)は

 

事業者数

割 合

課税売上高

割 合

課税事業者 個 人 1,433,507人   16.7% 352,743億円   2.8%
法 人 2,059,819社   24.0% 11,870,806億円   95.5%
免税事業者 個 人

4,250,893人 

49.5%

130,414億円  

1.1%

法 人

836,913社 

9.8%

78,659億円  

0.6%

となっています(財務省 平23.12.7 参考資料(消費税について))。

■免税事業者のいわゆる「益税」 

周知の通り、消費税を負担するのは最終の消費者ですが、生産・流通・サービス(役務提供)に関わる事業者が申告・納税します。ある商品の原料供給業者加工業者 ⇒ 小売業者 それぞれの販売価格を次の額とすると(括弧内は消費税相当額)、消費者が負担する消費税額20 は原料供給業者加工業者・小売業者の納税額の合計額に一致します。

 

原料供給者

加工業者

小売業者

消費者

仕   入

110

143(13)

176(16)

220(20)

売   上

143(13)

176(16)

220(20)

納税額(差額)

13

3

4

----

上記のうちのいずれかの事業者が免税事業者であると、その事業者が本来納付すべき消費税が納付されず事業者の手元に残り、いわゆる「益税」が生じます。この

表では1品だけの計算なのでかなり大きな金額(割合)になりますが、実際の免税事業者の売上高は前項の通りなので、「益税」の発生割合も同程度と推計されます。免税点制度は「小規模な事業者の事務負担及び徴税事務負担」への配慮から設けられた特例措置とされています。「徴税事務負担への配慮」とは「個人では約半数が、法人では約1割が免税事業者で、免税点制度がなくなれば約500万件の申告が増え、申告書の受付だけでも膨大な経費が掛かる」との意のようです。

■ インボイス制度がスタートすると

インボイス制度の施行後は、免税事業者はインボイス(適格請求書)を発行出来ず、課税事業者はインボイスが無ければ仕入税額控除が出来なくなります。従って、免税事業者は取引から排除されるか、消費税の転嫁を拒否される(値引きを要求される)のでは? と思案の方も多いと思われます。 

◆ 免税事業者が個人(及び免税事業者)を対象とした事業を営んでいる場合

個人対象の小売店や飲食店・サービス業の場合インボイス制度の影響は無いはずです。商品・サービスの購入者である個人消費者にとって、販売者が課税事業者であるか免税事業者であるかは関係ありません。関心は商品・サービスの価格(税込価格)、それに見合う品質(性能・効能・満足)ですから、インボイス制度は無関係です。

販売先・サービスの提供先が免税事業者である場合、両者とも税込み価格での経理処理が求められる事業者ですから、インボイス制度の影響は生じないと思われます。ただし、販売先等が課税事業者か免税事業者かを判断するのは困難です。例えば「街角の電気屋さん」。僅かな品揃え・少数の顧客で、商品の販売額は年間で100万円も無いように見えても、1件当たり数十万〜数百万の電気工事を年に数件請け負っていて、年収は1千万超かもしれません(この場合は、インボイスに該当するレシート・領収書を求められるでしょう)。

◆ 免税事業者が課税事業者を対象とした事業を営んでいる場合

免税事業者が生産・流通などの間にあって、販売先が課税事業者である場合は思案の「為所(しどころ)」が多くなります。課税事業者である小売業者に商品を納品(販売)している免税事業者を事例に考えてみましょう(税率は10%とします)。

インボイス制度開始によって免税事業者から仕入れ分の税額控除が出来なくなると、課税事業者(小売業者)の利益が大きく損なわれます。

納品業者(免税事業者)

 

小売業者(課税事業者)

 

インボイス制度開始前

インボイス制度開始後

売   上

 220 (消費税込み)

売   上

 290 (消費税込み)

 消費税額は 26

 消費税額は 26

仕入・経費

 170 (消費税込み)

仕入・経費

 220 (消費税込み)

 控除税額は 20

 控除税額は   0

 

 

 

差引納税額

                     6

                   26

利益額

 (上段:税込経理

  下段:税抜経理)

            290−220−6=64

 又は  264−200=64

             290−220−26=44

 又は   264−220=44

小売業者(課税事業者)は対応策として次のいずれかを取るでしょう。

 @ 納品業者に課税事業者になることを要求する = インボイス(適格請求書)の発行を要求する

 ➁ 納品価格を 200 (消費税込み)に値下げさせる

 B 取引の終了(納品業者の変更)

◆ 販売先が簡易課税の申告業者である場合

販売先の課税事業者が簡易課税の申告業者である場合、控除税額の計算にインボイスは必要ありませんから、インボイス制度開始前と同じ条件での取引が可能かもしれませんが、それは取引先の申告書の区分(一般か簡易か)を知る手だてがあればの話しです。「令和2年度国税庁統計年報」では、課税事業者約 318万のうち簡易課税適用事業者は約 114万(約35%)、個人事業者では課税事業者約 114万のうち簡易課税適用事業者は約 64万(約55%)となっています。

■課税事業者を選択するか、免税事業者のままでいるかの選択

免税事業者が個人を対象とした事業を営んでいる場合は、前項の通りインボイス制度の影響は無いはずですから、免税事業者を継続することになるでしょう。免税事業者が(簡易課税を選択していない)課税事業者を対象とした事業を営んでいる場合は、課税事業者を選択するか、免税事業者のままでいるかの選択を迫られます。

免税事業者が消費税分の値引きを受け入れて免税事業者を継続する場合と、課税事業者を選択する場合を比較してみます。受け入れる値引き幅と売上額に対する仕入・経費率によって影響の度合いが異なります( 課税事業者を選択した場合は、値引きなしとします )。

1.消費税分の全額の値引きを受け入れる場合

 

仕入・経費率が高い(75%)場合

仕入・経費率が中位(50%)の場合

仕入・経費率が低い(25%)場合

免税事業者を継続

課税事業者を選択

免税事業者を継続

課税事業者を選択

免税事業者を継続

課税事業者を選択

 売   上(税込)

 800   880  800

880

 800 

880

 仕入・経費(税込)

 660   660   440 

440

 220    

220

消 費 税

      20  

40

 

60

差引利益金額

 140   200  360

400

 580   

600

 △60

 

 △40

 

△20

 

2.消費税分の半額の値引きを受け入れる場合

 

仕入・経費率が高い(75%)場合

仕入・経費率が中位(50%)の場合

仕入・経費率が低い(25%)場合

免税事業者を継続

課税事業者を選択

免税事業者を継続

課税事業者を選択

免税事業者を継続

課税事業者を選択

 売   上(税込)

 840 880 840

880

840

880 

 仕入・経費(税込)

 660 660  440

440

220 

220

消 費 税

  20  

40

 

60

差引利益金額

 180 200 400

400

620

600

△20

 

± 0

 

+20

 

課税事業者を選択した場合、仕入・経費率が高いほど控除税額が大きい(消費税額が少ない)ので、免税事業者を継続した場合の利益額との差が大きくなります。仕入・経費率の低い業種で、値引き幅も小さい場合は免税事業者を継続する方が有利になる場合もあり得ます。

インボイスの無い課税仕入れについては、原則は税額控除の対象外ですが「経過措置」が設けられています。

 ◆ 令和5年10月1日〜令和8年9月30日   80%が税額控除

 ◆ 令和8年10月1日〜令和11年9月30日   50%が税額控除

この間は免税事業者を継続しつつ、税額控除率に見合った税込み価格で取引を継続する(取引先と交渉する)のも一法でしょう。扱う商品・サービスが極めて付加価値の高いもので「売り手の言い値」が通るものでない限り、インボイス制度は「それなりの値引き」か「課税事業者」になるかの二者択一を迫るものと言えそうです(これまでの「益税」のつけ払いでしょうか?)。

■僭越ながら

免税点制度による「益税」は税負担の公平の原則に反するものですが、免税事業者の数は膨大で「徴税事務負担」を考慮すれば「是認される程度」のようです。インボイス制度で課税事業者になる(転向する)事業者が増えるでしょうが、免税事業者が一掃されるわけではありません。

消費税は生産・流通・消費の全段階で転嫁され、事業者は(売上げに係る消費税額 − 仕入・経費等に係る消費税額)を納めることで、消費者が負担する消費税額=事業者が納める消費税額になることが予定されています。

免税点制度によって一部が納税を免れる「益税」が問題とされてきました。インボイス制度によって「益税」は減少するでしょう。しかし、免税事業者からの仕入れについては仕入税額控除ができず、「益税」の逆の現象が起きること(起きる可能性がある)ことについては、一部でしか論じられていません。

 

原料供給業者

加工業者(免税事業者)

小売業者

消費者

仕   入

110

143(税込)

176

220(20)

売   上

143(13)

176(税込)

220(20)

納税額(差額)

13

-----

20

----

加工業者が免税事業者である場合、この事例では本来の消費税額=20 のはずが納税額は 33 になってしまいます。「税の累積」と呼ばれているようですが、これはこれで「問題あり」のはずですが、実際のところ免税事業者の売上高は僅かのもので、しかも「益税」との相殺関係ですから「問題なし」とされているようです。

 

製作・著作 協進会  2022/09 

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