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決算書は格付の基礎資料
銀行は決算書の数字で財務分析を行っています。財務分析というと難しそうに聞こえますが、基本的には財務分析の教科書や「決算書の読み方」等のタイトルの付いている実用書レベルの知識で充分理解できます。
安全性の指標 |
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流動比率
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流動資産÷流動負債 |
高いほど運転資金に余裕あり |
当座比率
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当座資産(現預金+売掛金+受取手形+売買目的有価証券)÷流動負債 |
固定長期適合率
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固定資産÷(固定負債+資本) |
低いほど運転資金に余裕あり |
収益性の指標 |
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売上高経常利益率
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経常利益÷売上高 |
高いほど収益率が良い |
総資産経常利益率
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経常利益÷総資産 |
インタレストカバレッジレシオ
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(受取利息配当金+営業利益)÷支払利息 |
経常収支比率
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現金収入÷現金支出 |
債務償還年数
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(借入金+社債)÷(経常利益+減価償却費) |
低いほど収益率が良い |
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借入金が長期借入金か短期借入金かで、流動比率・当座比率は大きく変化します。長期借入金に分類可能であれば、その方が指標は良くなります。 |
これらの財務分析の指標の外、
●経営者の能力 ●業界内での地位 ●後継者の有無 ●市場の魅力度 ●含み資産の有無 ●研究開発力
などを加味して融資先、融資の申込み企業を「格付」します。
決算書なしでは格付ができませんので、決算書を見せない企業には、銀行は絶対融資しません。
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決算書の勘定科目明細/税務申告書
決算書の外、通常は勘定科目の明細(内訳)、税務申告書も一緒に提出が求められます。
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勘定科目明細 |
この明細は、決算書の科目の内訳を見るためのものですが
特に借入金の中味をチェックします。商工ローン等ノンバンクからの借入がないか? 異常に高い金利はないか? もしあれば、格付は当然低位(通常は融資不可のレベル)になります。
また、含み損益(次項)の有無を判定する資料としても使用します。 |
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税務申告書 |
決算広告義務のない(小規模の)会社・個人事業では決算書の信用度は低いので、より信用度の高い税務申告書で決算書の内容を確認します。「受付印の押してある申告書のコピー」を要求されるのは、そのためです。 |
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含み損益 決算書を重視する銀行では、資産の各項目が本当に実際の価値を表しているかを調べ、財務状況を判定します。主に、次の4項目です。
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有価証券
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時価に換算して含み損益があるか |
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土地
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同上 |
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貸付金
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契約書の有無、実際の返済の有無(返済の根拠)を調べ、返ってくる可能性がないと判断されれば、含み損となる |
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受取手形・売掛金・未収入金など
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倒産した企業のものがあれば、当然含み損となる |
決算書の資本勘定に含み損益を加減して、実際の資本額を計算します。決算書上の資本はプラスでも、含み損益を加減すると債務超過となってしまう企業は「要注意先」と判定されます。
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試算表
銀行の中小企業への貸し渋りは、古くからの政治課題ともなっていますが、なぜ銀行は中小企業に貸したがらないのか?
経理事務の担当者がいない、従って会計(税理士)事務所に丸投げ
…
しかも、取引伝票や領収書を事務所に届けるのが数ヶ月遅れ、その結果1年に1回、決算のときにしか営業成績が分からない
…
そんな会社には誰でもお金を貸そうとは思いません。
決算期以外にも最近の状況を把握する必要が生じた時は、銀行は試算表を決算書の代用とします。銀行融資を必要とするなら、試算表が即出てくるようにしておく必要があります。これは何も、融資のためだけではありません。月次レベルでの損益計算は、経営者にとっても最大関心事のはずです。
経理担当者がいなくて会計事務所任せの場合でも、せめて翌月の半ばまでには先月分の試算表が作成できるよう、帳票類(伝票・領収書等)を事務所に届けることが肝要です。
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返済方法と資金繰表
期日一括返済
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返済期限の日に、全額一括で融資を返済する
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分割返済
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一定の期間ごとに、融資金額を分割して返済期限までに返済する
●元金均等返済
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…
融資金額(元金)を均等に割って返済する。返済額(元金+利息)は徐々に少なくなる。 |
●元利均等返済
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…
融資金額+利息総額を均等に割って返済する。返済額一定。 |
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ほとんどの事業融資は、元金均等返済の方法が使われます。
返済計画は将来の資金繰りに影響してきます。そもそも、資金繰表なくして銀行融資はムリなので、融資金額・融資期間・返済方法・返済間隔(通常は毎月1回ですが)・1回ごとの返済額を、どのように決めたら資金繰りがうまくまわるのかを慎重に検討してください。
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節税と格付
「節税」は魅力ある言葉で、税金が少なくなるとほとんどの人は喜びます。企業での節税は大きな利益を出さずに納税額を圧縮することです。売上は数億円で、当期利益は数十万円
…
という決算からは、節税努力の跡が伺えます。
しかし、銀行が企業に融資をする時に最も要視するのは企業ごとの「格付」で、この格付は「自己資本と利益」を重視したものです。
節税のために利益を抑えていくと、当然のことながら自己資本も少なくなります。節税が巧く行くほど、「自己資本と利益」から判定する評価は低くなります。つまり、「格付」を落とす結果となります。 どちらを選択するか
… 格付けの基準と格付ごとの基準金利が判れば、シミュレーションが可能になります。 以下は、資金需要を
1億円 としての概略です。金利を、3%~7%とし、5年返済及び10年返済での支払利息の総額を一覧にしています。なお、返済方法は、元金均等払いです。
支払利息の総額
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金利=3%
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金利=4%
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金利=5% |
金利=6% |
金利=7% |
5年返済
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7,625,000
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10,166,667
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12,708,333
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15,250,000
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17,791,667
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10年返済
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(A) 15,125,000
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20,166,667
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(B) 25,208,333
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30,250,000
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35,291,167
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A
と B
では、約1000万円の差があります。支払利息は会社の経費ですから、(1000-1000×実行税率)以上の節税になるなら、格付けを落としても節税を選んだ方が有利となりますが、節税のつもりが脱税(容疑)にならないよう、くれぐれもご用心を!
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