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資本的支出と修繕費

個人事業では、文中 「法人、会社」 等としている箇所を適宜読み替えてください。

■ 資本的支出と修繕費の区分

車両、機械・装置、備品等の性能を維持するための支出や、建物等の便益・効力を維持するための支出は「修繕費 」 に該当し、支出した年度の費用としますが、その支出によって使用可能期間が延長されたり、価値が高くなる場合は「資本的支出 」 に該当します。資本的支出となる額は、支出年度にその全額を費用にはせず、減価償却の手続きを経て費用にしていきます。

資本的支出と修繕費の例示(通達)

資本的

支 出

建物の避難階段の取付け等物理的に付加した部分に係る費用の額

用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用の額

機械の部分品を特に品質又は性能の高いのもに取替えた場合のその取替えに要した費用の額のうち通常の取替えの場合のその取替えに要すると認められる費用の額を超える部分の金額

修繕費

建物の移えい又は解体移築をした場合(移えい又は解体移築を予定して取得した建物についてした場合を除く ) におけるその移えい又は移築に要した費用の額

機械装置の移設に要した費用(解体費を含む)の額。ただし、集中生産を行う等のための機械装置の移設に要した費用の額を除きます。

地盤沈下した土地を沈下前の状態に回復するために行う地盛りに要した費用の額

建物、機械装置等が地盤沈下により海水等の浸害を受けることとなったために行う床上げ、地上げ又は移設に要した費用の額

現に使用している土地の水はけを良くする等のために行う砂利、砕石等の施設に要した費用の額及び砂利道又は砂利路面に砂利、砕石等を補充するために要した費用の額

◆形式基準による判定

資本的支出に該当するか、修繕費に該当するか判断が困難な場合は、次に示す形式基準で判定することができます。

一つの修理・改良のために要した費用の(総)額

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20万円未満か

はい→

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●少額又は周期の短い費用

修理・改良のための費用が20万円未満のもの、概ね3年以内の周期で修理・改良が行われているものは、その全額を修繕費とすることができます

●60万円基準

20万円以上60万円未満であって、資本的支出か修繕費か判断できない場合に適用されます

●(前期末)取得価額

既に資本的支出が行われ、取得価額に加算されている場合は加算後の金額で、別個に計上されている場合はそれぞれの合計額です

●7:3基準の継続適用

少額又は周期の短い費用に該当するもの、60万円基準に該当するものは、それらを優先適用します

 

 

 

いいえ ↓

 

 

概ね3年以内の周期で行われているか

はい→

 

いいえ ↓

 

←はい

明らかに資本的支出である

 

 

明らかに修繕費である

はい→

 

不明 ↓

 

 

60万円未満か

はい→

 

いいえ ↓

 

 

(前期末)取得価額の10%以下か

はい→

 

いいえ ↓

 

 

災害により被害を受けた固定資産に支出したものか

 

 

いいえ ↓

現状回復のための費用か、被災前の効用を維持するための補強工事か

はい→

 

 

いいえ ↓

 

←70%

7:3基準の適用

30%→

 

7:3基準を継続適用している

 

 

いいえ ↓

支出額の30%と(前期末)取得価額の10%のいずれか少ない額は修繕費

上の金額を除いた額は資本的支出

 

 

実    質    判    定

 

 

資本的支出の金額

機械部品の取替えで、品質・性能の高いのもに取替えた場合、資本的支出に該当する金額は、通常の取替え費用に相当する金額を超える部分の金額です。

例えば、通常の取替え費用が50万円で、80万円の部品に取替た場合は、差額の30万円が資本的支出となり、50万円は修繕費です。修繕費の金額を明らかにするため、通常の取替えの場合の見積書等も揃えておくとよいでしょう。

判定の単位

一つの修理・改良のために要した費用の額は、その総額がいくらかで「20万円基準」「60万円基準」「7:3基準」が適用可能かを判定 します。

■事例1

機械の改良費に70万円を支出した。明からに資本的支出に該当する金額は15万円で、残り55万円は不明である。15万円の部分は「20万円基準」、残額は「60万円基準」を適用して、全額を修繕費にすることはできるか?

回等 ⇒ 70万円を1単位として判定するため、できない。

ただし、7:3基準を適用して 70 × 0.3 =21万円 を修繕費にすることはできます。

■事例2

次の製造設備のうち、Cを取替えた。取替えた機械の規格・性能は同等のもので、取替費用は1,350万円です。

以前から7:3基準を適用しているが、今回の取替費用は設備全体の取得価額の10%未満なので、7:3基準を適用して全額を修繕費にすることはできるか?

 

取得価額(万円)

帳簿価額(万円)

3,500

1,720

7,450

2,980

1,300

120

2,250

920

14,500

5,740

回等 ⇒ できない。

設備を構成する一部の機械・装置を取替えた場合は、その設備を構成する個々の機械・装置の取替え費用で判定します。設備全体の取得価額 14,500万円 ではなく、 Cの 1,300万円 の10%で判定します。

取替費用の 1,350万円 は取得価額に計上し、120万円は除去損に計上してください。

除去損

一つの修理・改良のために要した費用の額が、資本的支出と修繕費に按分される場合、除去等される部分の帳簿価額相当額は修繕費に含まれますから、該当資産の個別残額を減額すること = 除去損を計上すること はできません。

■事例1

装置全体の帳簿価額     2,000万円

取替部分の価額         500万円 (除去部分と同品質の物の価額 350万円)

工事費用               50万円

 

資本的支出に該当する金額は  (500 + 50) - (350 + 50) = 150万円 

修繕費に該当する金額は    (500 + 50) - 150 = 400万円 

   ○○設備     150   現金・預金   550

   修繕費    400 

○○設備 150万円を別途計上するか、 2,000万円に加算します。

■事例2

取得価額が  5,000万円の建物に、 1,500万円の補修・改良を行ったが、資本的支出と修繕費の判別が困難なため、形式基準のうち「7:3基準」を適用して、1,050万円を資本的支出とし 450万円を修繕費とした。改修部分の個別残額 は 150万円だが、この額 150万円 は除去損にできるか?

回等 ⇒ できない。

   建物       1,050   現金・預金   1,500

   修繕費      450 

建物 1,050万円を別途計上するか、 建物の帳簿価額に加算します。

◆耐用年数経過後の修理・改良

その支出によって使用可能期間が延長される場合は、資本的支出に該当します。では、耐用年数経過後に支出した修理・改良費は全て資本的支出に該当するか? 

文面だけで解釈すると、そのような見解もあり得ますが、(法定 ) 耐用年数は資産の使用可能期間を示すものではなく、費用の期間配分計算のために示されているものです。従って、通常の場合と同様に判定を行います(通達)。

◆申告調整

資本的支出に該当する金額を修繕費として決算を行った場合

個人事業者では、修正・更正の対象になり、修繕費の取消しと減価償却費の再計算が必要になります。

● 法人では、申告調整で事前に調整してから申告すれば問題は生じませんが、そのままでは税務調査 ⇒ 増額更正(加算税等が付いてきます)を待つことになります。

法人の場合の事例

◆ 決算で修繕費として計上した金額のうち 200万円 が資本的支出に該当することが判明したので、次の申告調整をした。

修繕費の自己否認

別表4で加算   …  減価償却超過額(修繕費否認分) 200(万円)  

別表5(1)     …  減価償却超過額(修繕費否認分) 200(万円)の増加

減価償却費分の計上

別表4で加算   …  減価償却費認容額   50(万円) ⇒資本的支出に該当する部分の当期償却額 

別表5(1)     …  減価償却超過額(修繕費否認分) 50(万円)の減少

別表16(1)…定額法

取得価額      

帳簿価額   

差   引

償却率

算出償却額    

償却超過額     

200

200

0.25

50

150

 

翌期以降の申告で、50(万円)ずつ認容されていきます

■ 資本的支出の原則的処理方法

◆平成19年4月以降

資本的支出に該当する額は、新たに減価償却資産を取得したものとして扱います。

● 償却方法・耐用年数は支出の対象となった資産と同じとします。

● 対象となった資産が、平成19年3月以前に取得したものであるときは、旧定額法 ⇒ 定額法、旧定率法 ⇒ 定率法 とします。

● 資本的支出が年度の途中であった場合は、初年度の償却額は月数按分が必要です。

◆平成19年3月以前 ( 参考 )

資本的支出に該当する額は、既存資産の取得価額に加算します。

● 資本的支出が年度の途中であった場合は、初年度の償却額は月数按分が必要です。そのため、実質的に取得価額に加算されるのは翌年度からです。

● 定額法では取得価額に加算した額が計算基礎額になりますが、定率法では、帳簿価額(残額)に加算した金額が計算基礎額になります。

● 合算後も耐用年数=償却率は変更されません。変更しなくても、合算後の計算基礎額が大きくなるため、償却に要する期間は長くなります。

定  額  法

定  率  法

〔補足〕

平成19年4月以降に行う資本的支出については、新たに減価償却資産を取得したものとして扱うことになりました。

(新)定率法では調整前償却額<償却保証額となる年度から定額法に切替えますが、償却保証額は 取得価額 × 保証率 ですから、取得価額を変動させないことが望ましい   …  との理由で原則的取扱いが変更されたとのことです。

■ 資本的支出の特例による処理方法

◆平成19年3月以前に取得した資産に対して行った資本的支出

既存資産の取得価額に加算することができます。この場合、償却方法は旧償却方法となりますので、合算後の取得価額の5%相当額になるまでは旧償却方法で償却を進め、5%相当額に達した翌年度からは、5年間の均等償却とします。

既存資産の取得価額に加算することができるのは、資本的支出を行った年度に限られます。

合算後の年度では、資本的支出の部分を切り離すことはできません。

事例 (3月決算法人)

◆平成15年4月に 1000万円で取得した資産に、平成21年10月に 400万円の資本的支出を行った。

◆耐用年数 10年、定額法で償却 ⇒ 償却率 0.1

年度

償却額

期末簿額

 

20

90

460

 

21

108

750

 償却額    既存部分 ⇒ (1000 - 100 ) × 0.1 = 90 

        資本的支出部分 ⇒ (400 - 40 ) × .01 × 6 ÷ 12 = 18

 期末簿額   460+400-108=752

22

126

626

 

 償却額  (1400 - 140 )× .01 = 126 

 

23

126

500

24

126

374

25

126

248

26

126

122

27

52

70

 1400 × 0.05 = 70

28~

5 年 間 の 均 等 償 却

◆平成19年4月以後に取得して、定率法で償却している資産に対して行った資本的支出

翌事業年度開始時にそれぞれの帳簿価額の合計額を取得価額とする一つの資産を新たに取得したものとすることができます。この特例を適用した場合は、次年度以降に再度別個に償却することはできません。

更に、同一年度内に複数回の資本的支出を行った場合は、既存資産への合算は任意に決めることができます。また、既存資産へは合算せず資本的支出同士を任意に合算させることもできます。いずれの場合も、次年度以降にその組合せを変更することはできません。

■ 旧5%残額の均等償却期間中に資本的支出をした場合

資本的支出を行った後の帳簿価額が、資本的支出を加算した取得価額の5%相当額を超える場合は、均等償却ではなく従前の償却方法(旧定額法・旧定率法)で償却限度額を計算します。旧定額法・旧定率法の場合をそれぞれ例示しておきます。

● 既存資産 ⇒ 取得価額 500万円、耐用年数 6年 、 期首帳簿価額 20万円 (均等償却2年目、償却額の端数は切上げ )

● 資本的支出 ⇒ 期首月から5ケ月経過時点で 120万円を支出 ( 償却月数は8ケ月 )

● 20 + 120 > ( 500 + 120 ) × 0.05 = 31 のため、均等償却はできません

◆ 旧定額法の場合

既存部分の償却限度額     

(5,000,000 - 500,000) ×  0.1666 = 747,000

償却額の合計    866,520

期末帳簿価額    533,480

資本的支出部分の償却限度額

(1,200,000 - 120,000) ×  0.166 ×  8 ÷ 12 =119,520

◆ 旧定率法の場合

既存部分の償却限度額     

200,000 × 0.319 = 63,800

償却額の合計     319,000

期末帳簿価額       1,081,000

資本的支出部分の償却限度額

1,200,000 ×  0.319 ×  8 ÷ 12 = 255,200

資本的支出を加算した取得価額の5%相当額 (31万円) までは旧定額法・旧定率法で計算し、95%償却後の翌年度からは5年間の均等償却とします。

製作・著作 協進会  2009/12

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